ぬる、ぬる、ぬる。

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 目が覚めたら白だった。天井も、壁も、何もかも真っ白な空間。僕は仰向けに倒れたまま、ぼんやりとそれを見上げている状態だったのである。  窓も、ドアもない。どうやら僕は此処に連れて来られた、ということらしい。身代金目的の誘拐か何かだろうか。だとしたら、僕を連れ込んだ入口のようなものがどこかに存在しているはずなのだがそれも見当たらない。  確かなのは一つ。高い、高い天井の、何もないまっさらなこの部屋にて。閉じ込められているのが、僕ひとりではなかったということだ。 「な、何だこりゃあ……!?」  肩にびっしりイレズミが入っている、いかにも“ヤクザ”といった佇まいの男。 「わけわかんない……何がどうなってるの?私、家に帰る途中だったはずなのに……」  灰色のスーツ姿の、OLっぽい女。 「うう、頭痛い……ガンガンするう……」  派手な化粧をした、スカートの短い女子高校生。 「ちょっと、ふざけんじゃないわよ!私は急いであいつの家に行かないといけないのに、なにこれどういうこと!?」  何も起きていないうちから、既にぷりぷりと怒っているおばさん。 「お前達よさないか。訳がわからないのはみんな一緒なんだぞ」  困ったようにそのおばさん達を宥める、人の良さそうなおじさん。  それから、小学六年生の僕。この八畳くらいの広さの部屋には、六人の人間がいるようだ。真っ白な部屋だが、僕達の服装は白一色ではない。なんだかそれが妙に浮き上がって見えて、不思議な感覚を覚える。  部屋に五人の人間。そして、部屋の隅にはバケツと、それに突っ込まれた刷毛のようなものがある。あれは以前見たことがあった。確か、アスレチックの塗り替えをしていたオジサンが使っていたものだ。つまり、ペンキを塗る道具である。何でそんなものが、ぽつんとここにあるのだろうか。
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