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その時私は、ごみごみとした薄汚れた街のアーケード街の二階にある、深夜営業の薄暗い喫茶店の窓際の席に腰を下ろしていた。店内は、奥の席でヒソヒソと話をするカップルが一組いるだけの、とても静かで居心地の良さを感じさせる店だった。
私はここで夜を明かすのも悪くないと思い、黒いレザーに白いレースのカバーが被せられた、座り心地のよいソファーからアーケードを行きかう人々を漫然と眺めていた。
タイル張りの壁には四隅が丸い、はめ殺しの窓があって、建物に古めかしい時代を思わせる雰囲気を与えている。窓の形を縁取る白いペンキの塗られた段差に溜まった埃が野暮ったく、時の流れの侘しさを感じさせた。
照明が落とされたアーケードを行き交う人々は疎らではあったものの、その歩みには活気が感じられる。そんな、週末の繁華街の怪しげな薄暗闇の中で、私はいつの間にか奇妙な人物を目で追っていた。
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