一 暗闇の街にて

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 その少女は、レンガ張りのアーケードを歩いている通行人の手を引いては、或いは声を掛け注意を引いては、何かを話しかけている様子だった。しかしその多くは彼女を無視して、そのままの歩調で歩き去って行く、たとえ足を止め彼女と向き合ったとしても、決まって首を横に振るのだった。  彼女は、声掛けに失敗するたびにあたりを見渡し、他の人物へと小走りに駆け寄って行く。その度に、華やかな柄にケバケバしいオレンジや黄色にピンクの色使いがされたキャミソールが、タイル張りの暗闇を、ペタペタと今にも音が聴こえてきそうなほどに力強く、(かかと)を跳ね叩くミュールを覗かせ泳いでいた。駆ける度に落ちる肩紐を、肩をさげ片手で掛け直しながら声掛けを続けている。
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