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しばらく経っても、誰も見向きもしなかった。少女は両の拳を斜め後ろに突き出し、地団駄を踏んだ。キャミソールの肩紐は両方ともに落ちていた。
やがて彼女は諦めたのか、それとも場所を変えるつもりなのか、ゆっくりとアーケードを出口に向かって歩きはじめた。私はこの奇妙な時間を与えてくれた少女を見失うのが惜しくなり、慌てて店の奥で休憩していた生気の感じられない店員を呼び寄せると会計を済ませ、人一人がやっと通れるくらいの、白く狭い急な階段を慎重に下って、アーケードから遠く先に見える、幹線道路の信号機のあたりに目を凝らした。
彼女は何処へ行ったのか。身長が低く、百五十センチ程度にしか思えなかった少女は、人影に隠れ、その姿を見付けることはできない。
それともアーケードのわき道へと抜けたのだろうか。アーケードを横断するアスファルトの道路の先には漆黒だけがどこまでも続いていた。
居た、あの子だ。
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