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二 あたし売ります。
人と人が重なり離れる一瞬の合間に、遠くで行き交うクルマの放つ光に反射する、鮮やかな花弁の色が確かに横切るのを私は見た。
私は、彼女になんと話し掛けようかと考えながら、信号機の青色や黄色を見詰め歩いてゆく。
話し掛けるとしたら何と言えばよいのだろう、考えれば考えるほど私の時間は遅れてゆく。にも拘らず、近づくリズムは速まっていると感じる。信号の赤は青へと変わっていた。
「君はあそこで何をしていたんですか?」
考えの答えは無いまま、言葉は勝手に放たれていた。スクランブル交差点へと踏み出した足を止め、彼女はからだを捻り上半身で振り返って私を見た。頭の天辺から足のつま先までマジマジと、しかし一瞥しおわると向き直り言った。
「売っていたんです」
「何を?」
「あたしをです」
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