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男は見開いた目を細くした。
口の端がゆっくりと上がり、満面の笑みとなる。
「すいません。寄附をおねがいします」
真ん中に立つ女の子は怯むことなく、男に向かって募金箱の口を向けた。
「余った小銭で結構です」
男はすぐさま、上着の内ポケットに手を入れた。
ふと思い返して、手を止める。
「ところでさ、集まっているの、募金」
せっかく女子高生と自然に会話ができる機会だ。
すぐに終わらせてはもったいない。
「こんなに大勢の人が行き交う場所だとさ、意外と素通りされて集まらないんじゃないかなって」
女の子は一瞬、鼻白んだものの、すぐに立ち直って口を開いた。
「そうなんですよ。立ち止まってくれる人、とても少なくて」
募金箱を上下に揺する。
硬貨が数枚、ぶつかって音を立てたが、中身はあまり入っていなさそうに見えた。
ほんとうは足を止めた男性諸氏が結構な枚数の紙幣を入れてくれたので、額面ではかなりの寄付が集まっている。
彼女はもちろん、そんなことはおくびにも出さない。
両隣の女の子たちも、募金箱をそっと上下させた。
「おねがいします」
「かっこいいお兄さん、募金おねがいです」
両隣の子の声に合わせて、真ん中の子が小首を傾げる。
男はなんだか、いい格好をしたくなった。
「じゃあ、おっきいの挿れちゃおっかな」
女の子たちは眉を曇らせたが、男は気づかない。
ジャケットの内側から、手帳型フォルダーに挟んだスマートフォンを取り出した。
「ゆ・き・ち、ゆ・き・ち」
「いーち・よう、いーち・よう」
取り出したのが札入れだと勘違いした女の子たちが、高額紙幣をリクエストする。
「ちょっと。やめなよ、ふたりとも」
真ん中の子は小声で言うと、男に向かって軽く頭を下げた。
「すいません。あの、小銭でいいので」
男は鼻から深く息を吸いながら、真ん中の子の顔を覗き込む。
なんだかもう、今すぐ抱きついてしまいたくなった。
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