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本日のブレンドを大きな機械で焙煎している間、椅子に座り休憩を取った。
そこで藤代はスマホの録音を聴かせた。
溜息を吐いて愛子はそれを聴き終えた。
「一度した人は何度でもする。一度も二度も同じ…。彼女、浮気に恨みでもあるのかしら?離婚しちゃえば……まぁ、確かに紙切れ一枚の事で簡単に離婚出来ると思いがちだけど、案外大変なのよ?」
「笹嶋愛子さん、と言っていたのが、急に変わるのが気になりました。彼女、不安定っていうか…危うげ?って言うのかな?旦那さんにも気を付ける様に…どんな手を使ってくるか分からないですよ?」
心配な顔で藤代が言う。
「そうね。奥さんの職場に来るくらいだもの。それなりに覚悟はしてるだろうとは思ってたけど…。」
「いや…店長。覚悟とか違うと思います。何にも考えてない。あの人は…覚悟などないですよ?気に入らない、ムカつく、腹が立つと言うだけで行動しているんですよ。そこに覚悟はないです。自分が何をしているか分かってない。警察に行くまで頭は冷えない。そういう人です。」
藤代が興奮気味に立って言うと、愛子はそれを見上げて呟いた。
「ちょっと…怖いわよ?警察に行くまでって……子供達、大丈夫かな?」
その言葉を聞いて藤代は慌てて座り、否定した。
「あ、ごめんなさい!大丈夫っす!!託児所は不審者入れないし、あ、ほら!最近小学校も…警備員いるとか聞くし……。」
「公立の小学校だから…警備員とまでいかないのよねぇ…。」
はぁ、と愛子は溜息を吐く。
「え!いや?あ…えっと…教師も対応を勉強しているし…えっと…。」
オロオロする藤代を見ながら、愛子の肩が震える。
「……え?」
愛子を注目して見ると、楽しそうな笑顔を向けられた。
「ふふっ……ふふ……あはは、うそ、嘘よ?ごめんなさい。あんまり心配な顔するから…。」
「……店長。」
「ごめん!ごめん!うちの子は大丈夫!逃げ足早いしね?防犯ブザーも持ってるし…旦那さんの方が心配かな?女運悪いらしいから。私も含めてね?あ、焙煎終わった。さて、藤代さん渾身のブレンドの試飲をしましょうか?」
愛子の笑顔を見ながら藤代は馬鹿な事をふと思う。
(この笑顔が毎日見られるなら…女運悪くても良いけどな…。)
叶わない願い……横にいる愛子の笑顔を見ながら一旦、作業を終え朝礼に出た。
午前中、後1時間程は愛子と焙煎室に居られる。
それだけで暖かい気持ちになれた。
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