藤代の心配

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「いい香り…今日の分よね?こっちやるわ。ブルーマウンテンよね?」 「…はい。……お願いします。すみません…早く来ちゃったから…。掃除は…ちゃんとしました。本当です。」 「別に疑ってないわよ?藤代さんはコーヒーを愛してるし、お客様の事も大事にしてるのは分かるわ。そういう人は掃除も大事にするわ。手を抜いたりはしないわ。」 くすくすと笑いながら、愛子は浅いローストの豆を機械から出した。 (コーヒーを愛してる……そうだけど…。) と思いながら愛子を見つめる。 「あの…ちょっと話があるのですが…。その…あの人の事で…。」 隠し事は良くないし、ましてあの女性の事ならどんな小さな事でも耳に入れておくべきだと藤代は考えて、口を開いた。 「…はい。何か、されたり言われたりした?」 思った通り……不安そうな声で、眼差しで言われて藤代は声を大きくした。 「俺は!大丈夫です!!昨日、俺…野瀬さんと焙煎に夢中になって、野瀬さんが5時過ぎに帰って、俺が店を閉めて出たのが多分、7時近かったと思うんです。鍵を閉めて歩き出したとこで…あの人がいました。声を掛けられて飲みに行こうと誘われました。」 「えっ?飲みに行ったの?」 驚いた声が聞こえて、藤代は思いっきり首を振った。 「行きませんよ!!何で知らない人と…まして店長を苦しめてるあんな人と……すみません…大きな声出して…。」 謝ると愛子も小さく首を振った。 「ううん、ごめんね?びっくりして私も大きな声出しちゃった。藤代さんは関係ないのに…巻き込んで申し訳ないわ。」 作業中の手を止めて、愛子はぺこりと頭を下げた。 「…関係ないとか、言わないで下さいよ。寂しいですよ?これでも店長の事尊敬してるし…なんか俺もあの人に色々言ったから…恨まれてるっぽいし…だから店長の所為じゃないです。あ、それで…。」 少し照れ隠しもあり、壁の丸い椅子の上に置いていた店のエプロンからスマホを出した。 「昨日は急で…無理でしたけど、この前の喫茶店での会話は録音してあります。昨日は明らかに俺を狙って誘いに来てました。甘えた声で飲みに行こう…愚痴でもなんでも聞くよって…。」 「……そう。藤代さんを味方に付けて私の情報でも欲しいのかな?それとも本当に藤代さんを好きになったとか?」 「ないっすね!」 「分からないわよ?藤代さん、かっこいいし女子高生も最近増えたわ。リピーターね?」 くすくす笑いながら愛子が話すと、藤代はぶっきらぼうに答えた。 「関係ないです…リピーターは有り難いですけど…。」 愛子にかっこいいと言われた事だけは素直に嬉しかった。
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