藤代の心配

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その日は早出出勤だった為、藤代も15時上がりで愛子は13時上がりだった。 お昼休憩を返上して働いていた愛子は、早目に帰り支度を始める。 それを見ると、お子さんが心配なんだと藤代は思った。 (余計な事…言っちゃたよな。) 藤代の母親はシングルマザーで、彼氏は頻繁に代わった。 それでも12歳の藤代拓巳が一度、勝手に学校をサボって夜の11時頃に帰宅した時は、警察官が家に来ていた。 恋人がいれば自分などどうでもいいと思っていたから驚いた。 母親は藤代を叩き、抱きしめた。 そんな母親でもそうであるのだから、愛子であれば相当心配なはずだと愛子の姿を見て母親を思い出していた。 挨拶をしながら事務所から出て来た愛子に声を掛けた。 「お疲れ様です!…店長、朝はすいません。余計な事言いました。」 両手を後ろに回してペコリと頭を下げると、優しい微笑みが返って来る。 「いいのよ?心配してくれて言ってくれたのだから嬉しいわ。本当に気にしないで?…あ、そうだ。朝の録音……もらえないかな?」 朝のと言う言葉から、下げた頭に近付いて来て、耳の横で小さな声で言われた。 それだけで緊張して、藤代は動揺した。 「え!あ、えっと…いいですよ。」 「……赤外線通信使える?」 愛子の言葉にクエスチョンマークな顔を向けた。 「赤外線?昔の?え?送りますよ?店長…スマホっすよね?」 「……え?ボイス機能から送れるの?」 真剣に驚いた顔で言うので、藤代は思わず笑う。 「店長…もしかして機械音痴っすか?」 くすくす笑って言うと膨れた顔をしながら、スマホを差し出してくれた。 「煩い!時間ないから藤代さんがやった方が早そう!ほら!目の前でやって頂戴!」 と言われて、スマホを受け取り簡単な説明を交えて操作した。 「店のメンバーラインじゃなくて、俺とのやり取りのライン作っていいっすか?他の人に聞かれない方がいいですよね?」 「あぁ、そうね?うん、任せる。」 「マイク設定して…あぁ、全然機能使ってないっすね…これで!はい、ここ押したら音声出ます。」 スマホ返されて確認する。 「……凄いわね?今度送り方教えて?」 「設定してあるので保存したやつをそこにおけば送れます。練習、俺相手ならいくらでもどうぞ。このライン二人だけなんで…失敗しても店の人は知りませんから。店長の威厳は守られます!」 「威厳は最初からないわね?でも恥をかかずに済むわね。ありがとう、練習するわね。あ…じゃあ、また明日!15時までよろしくね。」 「はい、お疲れ様でした、気を付けて!」 藤代が言うと、愛子は笑顔を向けて、小さく手を振り店を出て行った。 ラインを見つめながら藤代が嬉しそうに笑っていた。
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