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自動ドアが開くと同時に声を出す。
自動ドアに一番近いレジの人間が最初に声掛けをする。
だから愛子はいつも出入り口に一番近いレジに入る。
「いらっしゃいませ!」
笑顔を向けて軽めのお辞儀をして、顔を上げる前に気付く。
「いらっしゃいませ…。お久し振りです。」
「こんにちは!この駅前のお店だって実はリサーチして来ちゃいました。」
「リサーチ?」
目の前の男性に愛子は不思議顔を向けた。
「お忘れですか?うちの営業部はこちらの豆を仕入れてますよ?」
「あれからずっとですか?」
驚いて聞く。
「当然です!気に入ってますし、そんなにコロコロ変えないですよ?うちは顧客を大事にする会社ですからね?」
笑顔で言われて、その笑顔にホッとする。
年齢を経ても変わらない優しい爽やかな笑顔だった。
「リサーチしてまで…何か…大事な…?」
わざわざ忙しい人が店まで訪れた事に、不思議に思いながら愛子は訊き返した。
「ああ、店長さんに仕事のお話が…。その前にコーヒーブレンド一つ。お時間出来るまで店内で待たせて頂きます。いいでしょうか?」
「お仕事のお話なら…少しお待ち頂けたら直ぐに参ります。コーヒーも一緒にお持ちします。お席でお待ち下さい。」
「はい、じゃあ、お金…。」
スーツのポケットに手を入れ始めたので、愛子はそれを止めた。
「いえ、お仕事のお話ですよね?大丈夫ですから…。」
「でも…アポなしで来たから…。」
「ここは私の奢りで。久し振りに顔を出して頂いて嬉しいですから…。」
笑顔を向けて言うと、後ろに人が立った事もあり、静かにじゃあ…と会釈して席に座りに行った。
並んだお客様の対応をしてから、愛子はブレンドを二つ準備し、手に持って窓際の座席に座る新庄のもとへ歩いて行った。
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