再会

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10時から自社ビルの一階の大会議室にて、企業向けの文具の発売会が開かれる予定だ。 出勤すると朝からその準備に走り回っていた。 大きな企業から事務全般に使用する消しゴム一つでも、年間契約出来れば滝沢文具にとっては大きな契約になる。 営業もここで契約を取ろうと必死になっていた。 訪れるのは招待状を出した企業の総務や事務方の人が多い。 在庫を多く抱えている商品に関してはここで安く売るので、それを目当てに来る企業も多い。 同じ様な中小企業は正にそれが狙いだと言える。 こちらも在庫を捌けるのは有り難く、お互いにウィンウィンの関係になる。 受付に立ち招待状を見ながら名刺をもらい、挨拶をし、中へどうぞと勧める。 予想より沢山の人が来てくれて受付も混雑する。 待っている人同士が名刺交換も始めるから余計に混雑だ。 「反対側にも受付立ってくれ。二人、急いで!事務にも中の売り場応援呼んでくれるか?」 バタバタしながらも挨拶をして受付を済ませて行く。 「中川商事の新庄です。」 出された招待状を受け取り、誠一はその名前を聞いて顔を上げた。 「新庄さん?お久し振りです。覚えて頂いていると嬉しいですけど…笹嶋と言います。」 新庄は和かに笑い、 「勿論、覚えてますよ?お久し振りです。奥様にお変わりないですか?」 と誠一に名刺を渡しながら答えた。 「頂戴します。営業部長、ご出世されたのですね。おめでとうございます。愛子も元気にしております。今日お会いしたと話したら喜ぶと思います。」 名刺を自らも出して渡しながら答えた。 軽く会釈をして、新庄は中に入ろうとした。 その時、後ろから名前を呼ばれて停止し、振り返った。 「お!林!お前も来たのか?お前のとこ、営業は関係なくないか?」 「ありますよ?うちの部署で使う備品のまとめ買いですよ。たまには買う方にも回らないとね?買う気持ちを理解しないと…。」 背広の内ポケットから招待状を出しながら話し、林と呼ばれた男性は誠一を見て会釈をした。
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