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第1話 恐怖の催眠攻撃!謎の敵を倒せ②
「一刀両断!」
ファイブズの上半身がきしむのが伝わってきた。背中のランドセルに固定されている大剣が抜かれたのだ。ホークのモニターに目をやると、中心に敵をピタリととらえている。
「うおおおおっ」
僕が乗っていないほうの足が前に飛び出した。同時に僕のいる側の足が大きく前に傾斜した。ファイブズがダッシュを始めたのだ。
やっぱ足はきつい。キックでさえなければと思ったことを僕は後悔した。ホークのモニターに映る敵がぐん、と拡大された。次の瞬間、敵の両目がぐるりと別々に回った。やばい。
「翔馬、催眠音波だ。気を付けろ!」
僕はマイクに向かって怒鳴った。一瞬遅れて耳触りな唸りがコクピットを襲った。
敵の必殺技「催眠音波」だ。これにやられて同士討ちを始めた味方が何機もいる。
「畜生、そう何度も同じ手を食うかよっ」
翔馬がいかにもヒーロー然とした台詞を放った。ヒュプノジアと戦うのはこれが初めてではない。ちゃんと機体には攪乱ジャマーが搭載されている。
むおおおお、という胃の底がかき回されるような不快な振動がコクピットを包んだ。ジャマーが発動し、敵の音波が意味不明の情報に分解されたのだ。
「気持ちが……悪い」
四号機、レッガーの操縦者、轟雷寺静流の声が飛び込んできた。僕は反射的にホークのモニターを四号機のそれに切り替えた。静流の端正な顔が、苦悶に歪んでいた。
「だっ、大丈夫かッ」
僕は矢も楯もたまらず叫んでいた。そう言う僕自身も、それ以上喋ると嘔吐しそうなほど、気分が悪かった。
「みんな、我慢しろっ、あと少しだ」
翔馬が叫んだ。だから必殺技を出す前に名前なんか叫ばなきゃいいのに、と僕は思った。隙はできるし、敵には警戒される。どうぞ攻撃してくれというような物だ。
だが、必殺技の前に名前を叫ぶことは、僕らの義務だった。そうしないとスポンサーがつかないというのが理由だった。
僕らは全員、ファイブズの搭乗員になる際に契約をする。その約款の中に「必殺技を出す際は、必ず技の名称を叫ぶこと。上記の義務を搭乗員が怠った際は罰則規定に従い罰金等のペナルティが課せられる」と明記されているのだ。
「ううううう」
リーダーもつれえよな、と同情しつつ、僕はモニター内の静流の表情を見つめていた。
吐き気がピークを迎え、指の先が冷たくなりかけた時、異常な振動と音が、ぴたりとうそのように消え失せた。
「一刀両断!」
翔馬の雄たけびとともに、大剣が敵の頭上へと振り下ろされた。切っ先が頭部と思しき部分を粉砕した瞬間、敵の下半身が上半身から分離され、紙一重のところで逃れた。
「ちっ、逃がすか!」
ファイブスが敵の上半身から剣を抜くと、僕のコクピットが大きく浮遊した。敵の背を追いかけるつもりらしい。
ホークのモニターに映し出された無防備な敵の後ろ姿に、僕はふと嫌な予感を覚えた。
敵の上面に穿たれた穴から、砲台のような物がせりあがった。砲身の先端には、捕鯨船の銛のような尖った物体がセットされていた。
「気を付けて、翔馬!」
静流が注意を促し、ファイブスの足が一瞬、動きを止めた。次の瞬間、何かが勢いよくこちらに向かって放たれた。一瞬後、モニターの風景がぐるりと回り、どーんという耳を弄する轟音とともに鈍い衝撃がコクピットを揺さぶった。
僕はシートに体を預け、衝撃の余韻が収まるのを待った。気づくとフッターのモニターには青空が映し出されていた。おそらく何かに脚部の自由を奪われたファイブスが、仰向けに転倒したのだろう。
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