第2話 死闘の果て、事件は起こる①

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第2話 死闘の果て、事件は起こる①

「翔馬、上のみんな、大丈夫か?」  僕が叫ぶと、瞬時に声が返ってきた。最初は二号機、チェスタの速水黎次郎(はやみれいじろう)だった。 「かろうじて両手を地面についたが、それでもかなりの衝撃だったぜ」  よかった。僕は胸をなでおろした。両手をついたのなら、腰や胴への影響は少なくて済むに違いない。 「ワイヤーで足を絡めとられたみたい。翔馬、ウエストバルカンで応戦するから、ファイブスの腰を浮かせてもらえる?」  静流が少し苦しげな声で言った。腰の両側についているバルカン砲は広範囲に向けた迎撃が可能だが、仰向けに倒れたままの姿勢では当たるものも当たらない。 「了解だ」  翔馬が応じ、五号機がぐるりと回った。モニター上にそれまで写っていた青空が消え、代わりに広漠とした地平が現れた。  ほどなく静流の言葉通り、上の方からダダダという連射音と振動が響いてきた。撃っているということは敵が接近してきたという事だから、安心はできない。 「くそっ、ワイヤーを外さない限り、立ち上がれないぞ」  翔馬の苛立った声が響いた。次の瞬間、僕の目線はモニターの一つに吸い寄せられた。 「静流?」  モニター上に現れたのは計器の上に突っ伏し、ぐったりと目を閉じている静流の姿だった。やばい、気を失ってしまったのだろうか。僕が呼びかけようとした途端、モニターが再び真っ暗な元の状態に戻った。 「静流、大丈夫か?」 「……え?啓太君?え、ええ。大丈夫」  静流の声が聞こえ、僕はほっとした。とりあえず意識はあるようだ。 「翔馬、ヒートグリップはどうだ?」  黎次郎の声がした。ヒートグリップは手の中を高温にして敵の装甲を引きはがす技だ。長時間の使用は負荷がかかるため、数分程度しか持続できない技だった。 「そうか、なるほど。やってみる価値はありそうだな。それでだめなら剣で叩っ切ろう」  翔馬が応じ、ファイブスの機体が上体を起こす気配があった。ホークのモニター上にバルカンの弾を受けながら攻撃の機会を伺っている下半身だけの敵の姿が見えた。 「もっと上体を前かがみにしてくれ。でないとワイヤーに手が届かない」  翔馬が黎次郎に訴えた。続いて再び機体が軋む気配があった。ホークのモニターにファイブスの脚部と、そこに絡みつく銀色のワイヤーとが映し出された。  ファイブスの両腕が伸び、熱を帯びて赤く染まった指がぐっとワイヤーを掴んだ。頼む、間にあってくれと僕は祈った。
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