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第2話 死闘の果て、事件は起こる②
やがてワイヤーの一本から白い煙が立ち上ったかと思うと、勢いよくはじけ飛ぶのが見えた。やった。僕は思わず快哉を叫んだ。
同時にメインモニターの角度が変わり、敵の姿が映し出された。驚くほど近い距離感に僕は息を呑んだ。どうやらバルカンの弾が当たっていないらしく、一気に距離を縮めてきたようだ。
「立つぞっ」
翔馬の号令とともに、ファイブズがゆっくりと立ち上がった。僕のモニターは空と地平から一転して、敵の足元の映像に変わった。
「よし、スクリューランチャーだ!」
翔馬が叫ぶと、ファイブスの胸部から砲身がせりだした。スクリューランチャーとは、砲身に大剣をセットし、高速回転を与えながら敵に向けて発射する必殺技だ。
ファイブスが背中の大剣に手を伸ばすと、形勢不利と判断したのだろう、敵が突然、背を向け始めた。
「静流、もうバルカンはいい、必殺技の準備だ」
翔馬が少しいらだった口調で叫ぶと、腰からの砲撃がやんだ。すると、そのタイミングを待っていたかのように敵が駆け出した。
同時に敵の腰部からブースターのような装置が現れ、轟音とともに炎を吹き始めた。どうやら空を飛んで逃げるつもりらしい。
「逃がすかっ、飛ぶぞ!」
翔馬が叫んだ瞬間、僕は足元に凄まじい衝撃を感じだ。次の瞬間、身体がふわりともちあがる感覚があった。バーニアを使って跳躍したのだ。跳躍と言っても数十メートル程度で、空を飛んで逃げられたら、とても追いつくことはできない。一瞬が勝負だった。
「スクリューランチャー!」
胸の砲身にセットされた大剣が凄まじい勢いで回り始め、ホークのモニター上に照準が現れた。照準の中心に敵の姿が収まった瞬間、「発射!」という雄たけびが響き渡り、全員の顔が、モニターに五分割されて映し出された。
必殺技の場合、そういうカットになるように自動制御されているのだ。映し出された自分の顔が思ったほどひきつっていないのを見て僕は思わず(いい時の映像の使い回しじゃないか?)と勘繰った。
砲身から勢いよく射出された大剣は、空中にいる敵のどてっ腹をあやまたず射抜いていた。僕は思わず両の拳を握りしめた。戦闘は辛いがこの瞬間はやはり最高だ。
「やったな」
翔馬の安堵する声が響き、ファイブスは緩やかに地上に降り立った。後でGPSを頼りに飛んでいった剣を探しに行かねばならないが、それは別のスタッフの仕事だ。
地面に激突して黒煙を上げている敵を見ながら、僕は昂然と顔を上げ、できるだけ精悍な表情を作った。戦闘に勝利した直後は、このようにカメラを意識したたたずまいを維持する決まりになっているのだ。あとは本部の方で色調をいじって夕日が当たっているようにしたり、適当な音楽を流したりしてくれるはずだった。
「恐ろしい敵だった……ジャマーの機能が遅れたら、俺たちは全滅するところだった」
コクピット内に、エンディングテーマが流れ始めた。この曲が終わりが勤務の終わりだ。
『戦闘の終了を確認しました。合体を解除して基地に帰還してください』
コクピット内にアナウンスが流れた。僕の足部は一番最後に合体を解くことになっていた。他の機体が分離するのを待っていると、突然、翔馬の取り乱した声が響き渡った。
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