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第2話 死闘の果て、事件は起こる③
「みんな、悪いが三号機に集まってくれないか」
低く押し殺したような声音に、僕はただごとでない物を感じた。ファイブスは人型形態の他に、飛行形態「スカイ」と戦車形態の「ランダー」とがある。
人型の時は、合体前と同じようにそれぞれのパーツマシンに搭乗するが、それ以外の二形態の時は中央の三号機に集合する形を取る。そこから人型に変形する場合は、三号機からシートごと上下それぞれのコクピットへ移動する。
最も遠いのは頭部と足部で、数十メートルもの移動距離があった。僕は脚部の中を上に向かって移動しながら、一体何事だろうと身を固くした。
三号機の広いコクピットに到着すると、すでに翔馬、黎次郎、静流の三人が待ち構えていた。僕は翔馬の背に向かって声をかけた。
「どうかしたのかい」
僕の問いかけに、翔馬は首だけを捻じ曲げて振り返った。翔馬の眉間には深い皺が刻まれ、事態がただ事でないことを感じさせた。
「これを見てくれ」
翔馬が言うと、他の二人がすっと左右に分かれた。視線の先に現れたものを目の当たりにして、僕は思わず「うっ」と呻いた。床の上に三号機、ボディーの操縦者である真壁大造が、苦悶の表情を浮かべて倒れていた。
かっと見開かれた両目に生気はなく、半開きの口元からは舌がはみ出し、腕や顔のあちこちにあざがあった。
「どういうことなんだ、これは?」
僕はこわごわと問いを放った。理性では事態を把握していたものの、自分から口にするだけの勇気は持ち合わせていなかった。
「見ての通りだ。おそらく死んでいる」
「死んでいるって……戦闘で、か?」
僕は率直な疑問を口にした。翔馬は難しい顔でかぶりを振った後、口を開いた。
「わからない。わからないから集まってもらったんだ」
僕は唸った。考えにくいことだが、シートベルトが外れた結果の事故ということだろうか。確かに状況によっては頭を打つ可能性もなくはない。
大造が倒れている位置はシートのすぐ近くだが、床のあちこちに赤い帯状の汚れがあるところをみると、ビリヤードの玉のようにコクピットの中を激しく転がされたのだろう。
「本部への通信回線を、一時的に切断した。ミーティングと言う名目でだ」
翔馬が重い口調で言った。つまり、このことはまだ外部に漏れていないということだ。
「大造の身に、一体何が起こったのか。みんなの意見を聞かせて欲しい」
「ファイブスが転倒した時に、ベルトが外れてシートから転がり落ちたんだろう。それ以外に考えられない」
「その際に頭を打った……か?確かに常識的に考えれば、そうかもしれない。……が、別の可能性も否定できない」
翔馬は暗い目で全員を見回すと、恐ろしい事実を告げ始めた。
「大造の頭部には確かに打撲の痕跡がある。だがそれ以外の痕跡もある」
「……というと?」
「首だ。紐状の物で絞められた跡がある。……つまり窒息の疑いがあるという事だ」
僕は絶句した。翔馬の話を要約すると、こういう意味になる。大造の死は事故でなく、殺人の可能性があると。
それも、外部から人の出入りすることのない戦闘マシン内での殺人だ。
犯人がいるとすれば、それはすなわち、僕ら四人のうちの誰かに他ならないのだ。
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