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第一章 リボ払いに走るメロス 第一話「はじめてのクレジットカード」
消費税が10%に引き上げられると知り、富田林メロスは激怒した。
8%から10%への引き上げ、つまり2%の増税である。このような理不尽があっていいわけがない。必ずや、かの邪知暴虐の政府に鉄槌を下さねばならぬと決意した。
メロスは交通系IC機能付きクレジットカードMelonでクレジットチャージ決済すれば決済額の2%をポイントに還元でき、チャージ残高に1ポイント1円で充当できることなどわからぬ。
メロスは就職氷河期を生き抜き、コンビニエンスストアのアルバイトとして働く28歳の青年である。恋人に別れを告げられ、見えぬ未来に怯えながら暮らして来た。だからこそ消費税の増税には人一倍敏感であった。
幸いメロスの父と母はまだ壮健だったが、長男であるメロスは親のすねをかじるような真似をするわけにはいかないと隣町にあるボロアパートを住まいにしていた。22のやたら気の強い妹は既に去年結婚している。苦労して捻出した3万円のご祝儀を手に式に参列したものの28にしてアルバイトの身分であるメロスは自身の不甲斐なさを責めた。
メロスは両親にクレジットカードは悪魔が宿っており、使うと必ず破滅すると教えられた。愚直な性格なメロスはその教えを守り続け、未だクレジットカードというものを作ったことがない。
ちなみに妹は結婚式の莫大な費用を航空系クレジットカードで決済することで大量のマイルを貯め、無料の特典航空券と引き換えることでハネムーンを満喫していた。妹は昔から要領がいい。
「お兄ちゃんは本っ当マジメばかなんだから、もっとかしこく生きなきゃ人生損するよ?」
妹には幼い頃からよくそんなことを言われていた。確かに妹の言うとおりかもしれない。メロスに細かい計算はわからぬ、だがクレジットカードを使った方が何となくお得なのではないだろうか。
よく考えてみれば邪知暴虐の政府に鉄槌を下すのは大変である、国家反逆罪で捕まるかもしれない、保身に走ったことでメロスの決意はいとも容易く消失した。
ともなれば、メロスが成すことは決まっている。メロスは苔生し半壊したブロック塀に張られているクレジットカードの看板を頼りに電話をかけ、入会申込書を手に入れると会員規約もよく読まずに記入してポストに投函した。
ああ、もしメロスが会員規約をよく読んでいたなら……。もし読んだところでよくわからなかったとしてもコールセンターに問い合わせし、詳しい説明を受けていたなら……。インターネットでクレジットカードについて調べていたなら……。
もしくはせめてポストに投函する前に家族や友人と相談していればこのような悲劇は起らなかっただろう。
次回「リボ払いのはじまり」みんな、読んでくれよな!
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