一歩ずつ近づく

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一歩ずつ近づく

カリーナの小松さんは 毎週のように工房へ来ては雑談と作品を褒めて帰って行く これが仕事なんだろうか? そう疑問に思ったけれど 雑談の中の小さな呟きを覚えていてくれて ドンピシャな提案をしてくれるあたり キレ者の営業マンなんだろうな その小松さんの提案通り [作者非公表]で月替りに商品を卸すことになったのは帰国してひと月が過ぎた頃 少し時間がかかったのは より多くの商品を作り溜めたかったから それが・・・ 発売日初日 (完売してしまいましたっ) 電話の向こうの小松さんは 興奮気味だけど申し訳なさそうな声を出した 1ヶ月の月替り販売なのに 初日で商品が無いとなると・・・困っているはず 「簡単な物なら一週間程度で揃える」 そういう気持ちになれたのは 少しずつ重ねてきた小松さんとの関係だろう (また明日にでも工房へお邪魔します) 俺の提案に二つ返事で答えた小松さんから 翌日 「カリーナの電話回線パンクしてます」 苦笑いと共に嬉しい知らせを聞いた 「WEB担当が[イチ押し]のタグを付けたのもありますが 今の子達はデザインが気に入らなければ 話題にもしませんからね」 小松さんが操作するタブレットを覗き込むと 俺の商品が掲載された写真には 中央に大きな[完売]のスタンプが押されている [次回入荷未定]の文字もなんだか寂しい 「電話もそうですけど、一階の店舗には次回入荷を聞きに来るお客様が後を絶たないらしくて・・・」 「そりゃ仕事になんねぇな」 「・・・です」 二人で顔を見合わせて 渋い表情を浮かべるしかなかった
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