ドッペルゲンガー

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

ドッペルゲンガー

 「どうもこんにちは、私は君の分身です」 突如現れた、私にそっくりの女の子が最初に放った言葉、それがこれだった……。 「えっと、はい?」 きっと、何かの間違いである。私はとっさに、そう考える。もしくは何かの冗談だ。ゴシゴシと、目を擦ってみる。 ……目の前の光景は、何も変わらない。 「あの、どちら様ですか?」 「ですから、私は貴方の分身ですよ」 分身? それはつまり、ドッぺルゲンガーってこと? 私の? 確かにそっくりだよ、そっくりだけど! 「ドッぺルゲンガーなんて、いるわけないじゃん!」 あまりに非現実的。私はそんなもの、信じない。思わず叫ぶ。だって、有り得ない。 「そんなこと言わないでください、私の存在を否定するなんて……」 目の前の女の子は、そう言って悲しそうに目を伏せる。そして次の瞬間、 「酷いですね?」 訊ねるように私に言い、ニコッと笑った。 『背筋が凍る』 これは、こういうときに使う言葉なんだろうな。この女からは恐怖しか感じられない。 「ご、ごめんなさい……」 謝る以外、私に何ができるのだろう。 「そ、それでは、私は少し用事があるので!」 とにかくこの女の近くに居たくなくて、私は逃げようと駆け出す。 ガシッ。 でも、それは叶わない。 掴まれた、捕まった、殺される、この世から消される! そう、最悪の事態しか想像できなかった。 ガタガタ震えている私を見て、女は嬉しそうに嗤う。 「クスクス、そんなに怯えなくて大丈夫ですよ?」 イヤ、イヤ、助けて。誰か、助けて……! 顔をあげるのが怖い。私はうつむく。 地面には、全く同じ形の影が二つ伸びていて。 「ひっ!」 ガクッ。 恐怖のあまりに、私は膝から崩れ落ちてしまった。ポタポタと泪が地に落ちる。 「だから、怖がらないでください」 ポンポンッと、私は肩を叩かれる。 「やめてください!」 それだけで肩が外れてしまうんじゃないか、不安がドッと押し寄せる。 「私は、人間関係に悩んでいる貴方の代行です。少しの間だけ、貴方のふりをするだけですよ」 耳元で囁かれる。 この女の言うことを、私は信じていいのだろうか。ドッぺルゲンガーって、『会ったら死ぬ』という噂がある。これは、嘘なの? 本当なの? 「う、嘘でしょ?」 きっと、そうやって溶け込んで、私は殺されるんだ……! 「本当ですよ」 「て、でも、何ですかいきなり」 ぜ、絶対に裏がある……! 「だって貴方、『もう一人自分が居たら』と言いましたよね?」 「っ!」 そりゃ願ったとも、こんなに苦しい思い、私はしたくない。だから、艱難辛苦全ての代行者。そんな人が居たら最高だ、そう思った。 でも、 「そ、それだけで?」 「はい」 即答されるが、素直に信じることはできない。 「で、でも、代行ってどうやって? せ、性格とかがいきなり変わったら、あ、怪しまれるよ……」 更に、酷いいじめになるかもしれない。 「変人が。死ね!」「お前が生きてる必要なんて無いんだよ!」「グスグスしてて気持ち悪い、見ててイライラする!」 数々の残酷なコトバ。それが次々と頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消え……。 もしかして、噂に聞く走馬灯? やっぱり、私は死ぬの?  「怪しまれることはないですよ。だって、」 だ、だって? 「皆の記憶から、貴方の性格を消しますから」 ニコッ。 ゾワァ。 また、その笑顔。怖い、恐い。また、私を恐怖が包む。 「あ、勘違いしないでくださいね? 性格を消すだけで、貴方の存在を消すわけではないですから」 けす……ケス……消す……。 私は、消させる。この世から、消される。 「何処でそんな勘違いをしたのかはわかりませんが、消しませんよ」 いま、なんて言った……? 私は、口に出していた? いいや、出してない。なら、 心を読んだと言うの? 「どっちにしろ、貴方に拒否権は無いんです。早く、この書類にサインをしてください」 サインしないと、消される。 何故か、そう考えてしまった私。 私は、その書類に、サインをしてしまった……。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!