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ドッペルゲンガー
「どうもこんにちは、私は君の分身です」
突如現れた、私にそっくりの女の子が最初に放った言葉、それがこれだった……。
「えっと、はい?」
きっと、何かの間違いである。私はとっさに、そう考える。もしくは何かの冗談だ。ゴシゴシと、目を擦ってみる。
……目の前の光景は、何も変わらない。
「あの、どちら様ですか?」
「ですから、私は貴方の分身ですよ」
分身? それはつまり、ドッぺルゲンガーってこと? 私の? 確かにそっくりだよ、そっくりだけど!
「ドッぺルゲンガーなんて、いるわけないじゃん!」
あまりに非現実的。私はそんなもの、信じない。思わず叫ぶ。だって、有り得ない。
「そんなこと言わないでください、私の存在を否定するなんて……」
目の前の女の子は、そう言って悲しそうに目を伏せる。そして次の瞬間、
「酷いですね?」
訊ねるように私に言い、ニコッと笑った。
『背筋が凍る』
これは、こういうときに使う言葉なんだろうな。この女からは恐怖しか感じられない。
「ご、ごめんなさい……」
謝る以外、私に何ができるのだろう。
「そ、それでは、私は少し用事があるので!」
とにかくこの女の近くに居たくなくて、私は逃げようと駆け出す。
ガシッ。
でも、それは叶わない。
掴まれた、捕まった、殺される、この世から消される!
そう、最悪の事態しか想像できなかった。
ガタガタ震えている私を見て、女は嬉しそうに嗤う。
「クスクス、そんなに怯えなくて大丈夫ですよ?」
イヤ、イヤ、助けて。誰か、助けて……!
顔をあげるのが怖い。私はうつむく。
地面には、全く同じ形の影が二つ伸びていて。
「ひっ!」
ガクッ。
恐怖のあまりに、私は膝から崩れ落ちてしまった。ポタポタと泪が地に落ちる。
「だから、怖がらないでください」
ポンポンッと、私は肩を叩かれる。
「やめてください!」
それだけで肩が外れてしまうんじゃないか、不安がドッと押し寄せる。
「私は、人間関係に悩んでいる貴方の代行です。少しの間だけ、貴方のふりをするだけですよ」
耳元で囁かれる。
この女の言うことを、私は信じていいのだろうか。ドッぺルゲンガーって、『会ったら死ぬ』という噂がある。これは、嘘なの? 本当なの?
「う、嘘でしょ?」
きっと、そうやって溶け込んで、私は殺されるんだ……!
「本当ですよ」
「て、でも、何ですかいきなり」
ぜ、絶対に裏がある……!
「だって貴方、『もう一人自分が居たら』と言いましたよね?」
「っ!」
そりゃ願ったとも、こんなに苦しい思い、私はしたくない。だから、艱難辛苦全ての代行者。そんな人が居たら最高だ、そう思った。
でも、
「そ、それだけで?」
「はい」
即答されるが、素直に信じることはできない。
「で、でも、代行ってどうやって? せ、性格とかがいきなり変わったら、あ、怪しまれるよ……」
更に、酷いいじめになるかもしれない。
「変人が。死ね!」「お前が生きてる必要なんて無いんだよ!」「グスグスしてて気持ち悪い、見ててイライラする!」
数々の残酷なコトバ。それが次々と頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消え……。
もしかして、噂に聞く走馬灯? やっぱり、私は死ぬの?
「怪しまれることはないですよ。だって、」
だ、だって?
「皆の記憶から、貴方の性格を消しますから」
ニコッ。
ゾワァ。
また、その笑顔。怖い、恐い。また、私を恐怖が包む。
「あ、勘違いしないでくださいね? 性格を消すだけで、貴方の存在を消すわけではないですから」
けす……ケス……消す……。
私は、消させる。この世から、消される。
「何処でそんな勘違いをしたのかはわかりませんが、消しませんよ」
いま、なんて言った……?
私は、口に出していた? いいや、出してない。なら、
心を読んだと言うの?
「どっちにしろ、貴方に拒否権は無いんです。早く、この書類にサインをしてください」
サインしないと、消される。
何故か、そう考えてしまった私。
私は、その書類に、サインをしてしまった……。
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