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翌日のホームルーム、健太郎から聞いていた通りクラスマッチの話になった。バレーかバスケかの組み分けだ。バスケ部に所属している俺は初めからバレーになることが決まっているし、誰がどっちになるとか興味はない。特にやることもないのでぼんやりと黒板の前に立つなぎさと健太郎を眺めていた。健太郎のテキパキとした進行で男子の方は挙手であっさり決まっていく。
問題は女子の方だ。なぎさと同じ考えのやつが多いのか、バスケの人気がない。バスケ面白いのにな……と内心残念に思った。
「わー、こっちは多いな。で、バスケの方は五人かぁ、もう一人欲しいなぁ」
あと一人か……前に立つなぎさと健太郎が困ったような顔でクラスを見回しているのが見える。女子は目を合わさない。そりゃそうだ、自分が犠牲になりたくないもんな。こりゃ、難航するな……そう思っていると、なぎさが黒板にチョークを走らせる。なぎさらしい丸っこい文字でバスケの方に日野渚と書いた。
「これでバスケは六人、既定の人数に達するからこれで決まりね。みんな、いいかな?」
健太郎が心配そうな顔でなぎさに何か話しかけている。なぎさは笑いながら話す。おい、何話してんだよ。二人がどんな会話をしているのか、少しだけ気になるな、ほんの少しだけな。
なぎさの機転のおかげでホームルームは危惧していたよりもずっと早く終わった。クラスのみんながバラバラに教室を出ていく中、俺も健太郎と連れ立って部活に向かう。
「ホームルーム意外と早く終わってよかったよなーもっと時間かかるかと思った」
渡り廊下を歩きながら、健太郎は伸びをした。正直に言うと、俺も同じことを思っていたから短く同意する。部活に行く時間が遅れるなと心配していた。現にまだホームルームが終わっていないクラスもある。
「日野さんがさ、自分はネガティブな理由でバレーを選んでいたから、やりたい子たちに譲りたいって」
「他のやつがバレーがやりたいから選んでるどうかわかんねぇだろ」
「それはそうなんだけどさ、日野さんさ、バスケもシュートの練習くらいならできるかもっていってた。ちょっと嬉しくない?」
「なんでだよ?」
「バスケ好きな人が増えたら嬉しいじゃん」
「なぎさ、鈍くさそうだしケガしなきゃいいけど」
「クラスマッチでそんな激しいことにならないだろ」
健太郎は「そういえば」と思い出したかのように俺を見る。
「なんでなぎさなの?」
「は?」
「なんで日野さんだけ名前呼び?」
「おまえのことだって名前で呼んでるだろう」
健太郎は何か考えるような素振りを見せてから、表情を緩めて「それもそうだな」と言った。なんなんだよ、なんで名前で呼んだらいけないんだ? 普通だろ。なぎさのことを「日野さん」って呼ぶとか、なんか変な感じがするんだよ。そういえば、なんでだろうな。
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