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「さぁ始めるぞ、まずこの前の自主トレの成果を見せて見ろ」
なぎさは自分の顔よりも大きなボールを抱えて、リングの正面に立つ。重そうに持ち上げたかと思ったらボールの真横を掴んでそのまま放る。小さく放物線を描いたボールは到底リングに届かず、コロンと地面に転がった。
「な、重いだろ?」
「うん、重い、全然投げられない」
そりゃぁそうだ。いろいろ直す必要があるな。
「まず、フォームが悪い、腕力もない、放つ位置も悪い、腕だけで投げてるし、狙いが定まってない――」
一体何をどうやって覚えてきたは分かんねけど、何一つできてねぇじゃねぇか。俺が一から教えてやる。
「今まで覚えたことは全部忘れろ、一から叩き込んでやる」
せめて、シュートくらいまともに打てるようにしてやるから。
「体の前で持ったボールを頭の上にもっていけ、それから、膝を曲げて手首を真っすぐに返す、左では添えるだけだ」
なぎさの手の上からボールを掴む。小せぇ手だな……俺の掌にすっぽりおさまっちまう。小さな体で必死に頑張るなぎさのことを、応援してやりたくなる。
「膝を曲げろ、狙いはリングの少し上だ、リングの下を狙ったって絶対に入んないぞ。あの小さな四角の中に当てるように狙え」
狙いを定め、一緒にボールを放つ。大きく弧を描いたボールはリングの上のパネルに跳ね返り、ネットをくぐった。
「入った……やった! 入ったよ!」
たった一本はシュートが決まっただけなのに、なぎさは飛び上がって喜ぶ。なんだよ、大袈裟だな。
「俺と一緒に打ってんだから入ってあたりまえだろ、今みたいな感じで、一人で打てるように練習するぞ」
「は、はい……!」
嬉しそうに笑顔を見せるなぎさ――なぎさと一緒にいると、なんだか普段の景色が鮮やかに見えるような気がした。
オーストラリアに引っ越した当初みたいに、目に飛び込んでくる世界が色づいて見える。なんでだ――
なぎさ、おまえどんな魔法使ってんだよ。
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