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講堂に入る前に「燈也!」と名を呼ばれた。振り返ると人懐っこそうな笑顔の男が立っている。面影がある、健太郎だ。声に聞き覚えがないのは声変わりしたからだな。
「久しぶりだな健太郎」
「うわぁ、燈也、声低くなったなぁ」
「おまえもな。背も伸びたな」
小学生時代小柄だった健太郎は、俺が引っ越してからぐんと背を伸ばしたらしい。ほっそりとしていた手足もなんだか逞しくなっていた。
健太郎ははにかみながら答える。
「燈也に言われても説得力ないな。俺も伸びたと思うけど、おまえの方がずっと高いや。悔しいなぁ」
そう、健太郎らしい爽やかな笑顔を見せる。変わらないなと思った。健太郎が変わらないことが嬉しい。
「そうだ、燈也俺とおんなじクラスだよ」
「そうなのか?」
「見てないのかよ」
「自分の名前は見た」
あと、日野渚の名前、とは言わなかった。健太郎に言ったところでわかるわけがない。
「わぁ、相変わらずだな。まぁ燈也の高校生活は俺が保証するから安心しなよ」
「どういう意味だよ」
「俺と一緒だから楽しいぞってこと」
俺は白い歯を見せて楽しそうに笑う健太郎を見て口元を緩める。おまえも相変わらずだな。健太郎と一緒に過ごした幼い頃の記憶が蘇る。明るい健太郎は友達が多く、誰とでも上手くやっていた。そんな健太郎が人付き合いの悪い俺とつるんでいた方が不思議と言ってもいい。
確かに、健太郎が同じクラスなら楽しくやれそうだ。それに――と俺は掲示板の前で跳ねていたクラスメイトの顔を思い出す。なぜだか心臓が少し脈を打つ速度を上げた。
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