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四月のうちから、健太郎と俺は同じクラスの石川さんに引っ張られるようになぎさや四組の渡利さんと一緒に行動するようになった。俺たち五人はなんとなく馬が合って一緒にいると楽しい。何より、居心地が良かった。あんまり人とつるんだりしないたちなんだけどな──
女子三人は同じ中学校の出身らしくて、少し一緒にいるだけで仲が良いのがよくわかった。石川さんは社交的でハキハキしていて頼りになる。渡利さんも社交的だ。でも、なぎさはなんだかおっとりしすぎていて危なっかしい、すぐに転びそうになるし、鈍くさい。ついつい目が行ってしまう。それに反応が面白い。よく笑う。見ていて飽きない――
気が付けばいつも目線は小さな背中を追っている、そんな自分があまりにも滑稽に思えた。なぎさのことが気になるのは危なっかしいからだと思う。誰かが見ててやらないといけないような、そんな気にさせるから──
「燈也、俺今日委員会なんだよ。先に部活行ってて」
放課後、体育館に行くために健太郎を誘おうとしたらそう断られた。そうだった、忘れていた。健太郎は学級委員になっていたのだった。俺はどの役員にもあたっていないから気楽なものだ。健太郎の役職はかなり面倒くさそうだなと思うけど、一緒に学級委員になっているのがなぎさだから、柄にもなく楽しそうだなと思った。ほんの少しだけな。学級委員なんて、俺には絶対に向かない。
でも、俺と違って面倒見の良い健太郎にはピッタリの委員だなと思う。現に健太郎は嫌がる素振りもなくは楽しそうにこなしていた。なぎさの方は人前に出るのが苦手らしくて、前に立っていると、いつも緊張しているのが見ているこちらにまで伝わってくる。
苦手だろうに、やらされてる感も出さずに頑張っている姿は好感が持てた。頑張ってるやつのことは、こんな俺でもそれなりに応援したくなる。
なぎさ、オーストラリアにも興味あるって言ってたな――
小学三年生から高一の三月までオーストラリアの自然の中で育った。夏には仲間や家族をキャンプに行って、海で泳いだり、満天の星を見たり――
日本に帰ってくるのが嫌じゃなかったと言えば嘘になる。帰国子女枠なんていう特別枠みたいな入学の仕方も嫌だった。
はじめは嫌だった海外渡航だったけど、オーストラリアの水は意外と俺に合っていた。住み慣れたら一生ここがいいって、ずっと思っていた。だから、親父の帰国が決まったときに、また日本かよって、正直嫌気がさしていたんだ。
でもな、変わらない健太郎や、気の良い仲間と出会ってそこまで悪くないんじゃないかって思ってる。なにより――
俺は健太郎の隣でカチンコチンに固まりながら委員会に出席しているであろうなぎさのことを考えた。あぁ、日本もそんなに悪くないな。
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