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時々学校帰りに健太郎の家に行って宿題やら課題やらを片付ける。会話に支障はないが、授業となると理解の遅れる俺にとって、健太郎は日本語教師のようなものだった。こうやって週に一度一緒に勉強する時間がるとありがたいなと思う。まぁ、結局一緒にゲームとかして終わるんだけどな。
「燈也、もうすっかり日本に慣れただろう?」
入学してから二か月が経っていた。隣でゲーム画面を凝視しながら、健太郎が尋ねてくる。
「おかげさんで」
「良かった。燈也、思ったよりも楽しそうだもんな」
「なんだよ、無駄な心配すんなよ」
年下の健太郎に心配されるなんてなんだかすごく気恥ずかしいな。だが、悪い気ばかりじゃない。
「俺、燈也が変わってたら嫌だなって思ったんだよ。すげぇ嫌な奴になってたらどうしようとか、俺のこと覚えてなかったらどうしようとか」
「ばーか。心配しすぎだし。そもそも嫌なやつとか失礼だな」
健太郎はおかしそうに笑う。昔と変わらない笑顔だ。
俺も安心したよ。おまえが変わってなくてさ。
「そうそう、今度クラスマッチあるじゃん?」
「そうだっけ?」
「行事表ちゃんと見ろよ」
「俺、そういうの基本すぐ捨てるタイプだからなぁ、委員長が近くにいると助かるな」
健太郎は呆れたような顔になる。クラスマッチ――たしかバレーとかバスケとかを選んでやるんだったかな。俺はバスケの方が得意だけど、バレーもそれなりにできると思う。オーストラリアで両方よく遊んだし、そもそも球技は全般的に得意だ。体を動かすことは嫌いじゃない、むしろ好きな方だと思う。
「俺と燈也はバスケ部だから、強制的にバレーの方やんなきゃいけないんだよ」
「そうなのか?」
「ちゃんとプリント読めよ」
「プリント日本語で書いてあるから」
「当然だろうが、早く慣れろよ」
確かに、いい加減慣れないと今後も苦労するだろうな……。仕方がない、ちゃんと目を通すようにするか――なんて考えていると、健太郎が口を開く。
「日野さんもさ、バレーにしたいって言ってた」
突然なぎさの名前が出てきて驚いた。別におかしくないけどな、おんなじ学級委員だし。
「運動音痴だから両方できる気しないって」
「ぽいなー」
「同じコートに敵がいると怖いからバレーがいいって言ってたよ。なるほど、そんな選び方があんのかーって思った」
「俺は目の前からスパイクが飛んでくる方が怖いよ」
「バレー部いないから強烈なスパイク打ってくるやついねーよ」
「そりゃそうか」
同じバレーなら、試合の観戦もしやすいな。健太郎もクラスの応援したがるだろうし、便乗して俺もなぎさの運動音痴っぷりを見てやろうと思った。
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