2 娘のため息

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2 娘のため息

 香織はベッドにうつ伏せになると、ため息を布団に染み込ませた。クマのぬいぐるみを抱き寄せ、ギュッと綿を押し潰す。  だめだ。またお母さんにキツく当たってしまった。今日は特に言い過ぎたよな。お母さん、香織のために一生懸命ケーキ、作ってくれたのに。  由美や美波たちと明日のクリスマスパーティーの計画を進めていくなかで、気づいたらクリスマスケーキは香織が持っていくと口走っていた。  由美の家は広くて豪華で、きっと誰もが憧れる。由美のお母さんはスタイルも良くて優しいのは有名な話。パーティー当日、みんなが由美の家庭を羨ましがるところを想像したら、なんだか、いてもたってもいられなくなったのだ。  どうしてそんなこと言ったんだろう。悔しかったから? お母さんが作るマシュマロフォンダンのかわいいケーキを自慢したかったから?  答えを探そうとすると、途端にイライラがこみ上げてくる。  お母さんに謝ったほうがいいかな。でも、許してもらう瞬間を想像したら、なんだかむず痒い。  きっと、これらの感情を恥ずかしい気持ちと認めたくないんだ。  こんなふうに感じはじめたのはいつからだっただろう。前はすぐに忘れられたり、謝ることを難しく思っていなかったはずなのに。  大人になるにつれて、考えることが増えたからだろうか。でも、いくら考えても正解が分からない。  今日の出来事が頭を過ぎって、香織は布団を被った。  あのときだって、由美に対して、自分はどうすれば良かったというのだろう。    今日は由美と美波と一緒に、明日のためにイオンにクリスマスプレゼントを買いに行ってた。  明日は由美と美波のほかに、クラスの男子が三人来る。去年までは女子だけだったのに、突然由美が誘った。涼太くんと、涼太くんが仲良くしている二人だ。  クリスマスパーティーの一大イベントなのがプレゼント交換。でも、男女混合だとプレゼント選びは困難を極める。そこで、女子は男子が買ってきたプレゼント、男子は女子が買ってきたプレゼントの中からランダムに選ぶことになった。これも由美の提案である。  とはいっても、お互い男兄弟もいないため、男子向けのプレゼント選びには自信がない。プレゼントがかぶらないようにするためにも、一緒にプレゼントを買いに行くのは自然な流れだった。  薄々感づいていたけど、由美も涼太くんのことが好きだった。今日それがはっきりしたときには、身体が締め付けられるような寒気に襲われた。
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