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3 娘の笑顔
「香織ー! そろそろ起きないと、パーティーに遅れちゃうわよー!」
朝。階段の下から怒鳴るお母さんの声は、ドアを閉め切っていてもうるさい。
香織はもぞもぞと起き上がり、カーテンを少し開けた。
さむっ。窓は一面真っ白に曇っている。光を瞼に馴染ませると、自然に目が開いて頭も冴えてくる。
昨日の出来事を思い出して、香織は途端に行きたくない気分に襲われた。
でも、由美と美波とは仲直りしたのだ。また友情関係が壊れるようなことをしてはならない。
渋々ベッドから立ち上がろうとした。
そのとき、視界に白いものが飛び込んできた。
香織は、魔法にでもかけられたんじゃないかと錯覚した。
クローゼットのドアの前にかかっていたのは、昨日黒く汚してしまったはずの白いダッフルコート。隠すように、クローゼットの中にしまったはずなのに。
それだけじゃない。黒い汚れが消えている。
窓からの光に照らされて、コートはより一層白く輝いて見えた。
恐る恐るコートに触れて裏返してみるが、汚れは綺麗に無くなっている。
シンデレラみたいな気分だった。でも、香織はフェアリーゴッドマザーに助けてもらえるほど、いい子にしていた訳じゃない。
洗剤の香りがふわっとした。
お母さんになんてお礼を言おうか、そのことで頭がいっぱいだった。
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