未来をかたるということは

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未来をかたるということは

訪れなかった未来を騙ること、それはもはや自殺に等しい。 過去を偽れないことを知りながら その口は止まることなく喋り続ける。 古傷が開いてもなお、繕うように自分は騙り続ける。 心がえぐられたような痛みを伴いながら もう二度と手に入れられないものをねだる。 そうやって、何度も何度も自分を傷つける。 どれだけ傷ついても知らぬフリをする。 そのたびに学習能力のない自分を呪う。 過去を語る。過去を騙る。 同じ行為なのに、その意味は大きく変わる。 私だって、ありえたはずの未来を歩みたかった。 私だって、ありふれた道を歩みたかった。 私にはそれができなかった。 どこでまちがえたのだろう。 後ろをふりかえっても分からない。 ちゃんとしていれば、かがやく将来を歩めのだろうか。 ふつうにしていれば、まばゆい未来を歩めたのだろうか。 なんかもう、どうでもいいや。 本音なんか興味ないくせに。 どうせ、好き勝手に言うんだろうな。 お前はもう死んだんだから、勝手にしゃべるなとでも? 生きている間も、発言権は得られなかったのに? 生きても死んでも理不尽な目にあう。 なら、一体どうしろと? どうせ、考えても無駄なんだろうな。 こたえなんて、出やしない。 求めているものとは違うこたえがかえってくる。 本音なんて誰も聞きやしない。 ああ、悪魔でも何でもいいから、誰か私を助けてください。 正義はきっと、助けてくれないだろうから。 踏み出した一歩の先は虚無。 伸ばした手の先は虚空。 目を閉じて、未来をシャットアウト。 目が覚めたら 空は白に染まっていた。 今日は曇天。天気予報によれば、涙の雨は降らないらしい。 しかし、私の視界は霞み、ひどく歪んでいる。 涙を流していることにようやく気がついた。 私が流しているその涙さえ、命の色をしていれば何か変わったのだろうか。 何もかもから、嫌われている。 自分の命ですら、私を嫌っている。 遠くから響くサイレンの音、カメラを構える人々。 顔をしかめる人、近くから聞こえるシャッター音。 人の不幸は誰かの見世物で、遠い誰かを楽しませるものだ。 自分には関係ないと、画面越しの死体を見て笑う。 ああ、こんな姿になっても誰も手を差し伸べてくれないのか。 次は誰かを助けられる人に、手を差し伸べる人になれたらいいのに。 もっと強い自分になれるのに。
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