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「おとっ……男としてって……や、やだなぁ! 汐見君は男でしょうが! うんうん、ちゃんと男性だよ。めちゃくちゃイケメンな男性……」
「そういうんじゃないです」
話を逸らせようと笑って誤魔化したのに、逃げ道を塞がれてしまう。
一体どういうつもりなのか。
遥なら、どんな女もよりどりみどりなはずだ。なのに、どうして取るに足らない自分などに、こんなに真剣な表情を向けるのか。
十も上で、仕事一辺倒な上に頑固で、きっと普通の男は扱いに困る。おまけに、結婚直前に婚約者に逃げられるという恥ずかしい過去まである。いいとこなしではないか。
戸惑いの表情を見せる亜耶を慮ったのか、遥は再びしゅん、とした顔をして、亜耶の手を離した。こんな顔をされると、まるで自分が悪いことをしている気分になる。
「汐見君……」
「すみません、俺、焦りました」
「焦る?」
遥はコクンと頷いた。
「高槻さんと二人だけで食事ができて、舞い上がってました」
「あの……」
舞い上がるとは言いすぎだ、自分はそんな人間ではない。そう言おうとすると、遥が俯けていた顔を上げ、亜耶を真正面に見据え、言った。
「いきなりは難しいですよね。うん、俺が悪かったです。いきなり男としてなんて、無謀でした」
「は、はぁ……」
「だから、最初は弟みたいな感じでいいです。パシリみたいな舎弟とか! あ、企画の平林さんって高槻さんの部下で、高槻さんも可愛がってるって聞きました」
「え、あ、うん」
前のめりになる遥に、またもや亜耶は仰け反る。一体何が起こっているのだろうか。
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