鬼は熱情をその瞳に隠す

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「どうかしました?」 「私、この看板が好きなんです。しなやかに流れるような文字ひとつひとつがまるで散っていく桜のようで。」 「え...?」 マスターは一瞬目を丸くした。 「筆には魂がこもるっていうのは本当ですよね。」 にっこりと笑いマスターを見ると、マスターは手で口を隠しながら目を逸らした。なんだか顔が赤い気がする。 「あの、何か?」 静香は不思議に思いマスターの顔を覗き込む。 「いや......それ俺です。」 「俺?」 「その字は...俺が書いたものです。」 「.........え?」 思考が止まった。 (どゆこと?) 「うちは書道の一家なんです。」 (えーー!!???) 静香は心の中で盛大に叫んだ。 「マスター書道家さんなんですか?!」 「...ええまぁそうなりますね。」 そんなことチラリとも思わなかった静香はただただ唖然とした。 マスターの話はどれも意表を突いてくる。 「少し、歩きながら話しましょうか。」 マスターは静香の手を引きながら桜並木が続く土手をゆっくりと歩き出した。春風に乗ってひらひらと舞い落ちる花びらがまるで雪のように美しい。 マスターが空を見上げ口を開いた。 「鬼灯家はその昔、討伐から逃れひっそりと人間に化けて身を隠した鬼たちの一族だと伝えられてきました。 なので極力目立たぬよう、家からはあまり出ずに生きてきたのです。」 「家を出ずに?」 (マスターが人混み苦手なのはそれが理由なのかな) 「昔から書道や柔道など、家で教室や道場をやるようになったんですよ。一族はみんな武術を使えます。」 「みんなですか?凄い。」 バーで働いてる時間以外の謎が一つ解けた。多忙なわけだ。 「あの、前から不思議だったんですけど酒呑童子の生まれ変わりっていうのは子孫ってことですか?」 「んー子孫かと聞かれると難しいですね。確かに鬼の家系の中でしか起こらない話ではあるので。 500年に一度鬼の魂が宿る“鬼の転生”ですね。呪いのようなものです。」 「呪い......。」 (愛する人を探すための?) 「でももうそれは俺で終わりかもしれない。静香さんにようやく会えたから。」 「え?」 マスターは嬉しそうに、でもどこか切なそうに微笑んだ。その顔を見た瞬間、衝動的に静香はマスターの頰に手を伸ばす。 ーーーすると。 「っ?!」 ガシッーー。
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