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「マスターから連絡がない。」
静香は朝からポツリと呟いた。
お付き合いが始まってから、いつも朝起きると必ずマスターからメールが入っていた。それが日々の楽しみでアラームよりも早く起きることもある程だ。
なのに何度携帯を開いてみてもマスターからのメールは受信していなかった。スマホを手に取ってはおいてを繰り返し。こういう時こちらからどんな内容を送ったらいいのかわからない。
朝からずっとこんな調子だった。
金曜の夜は会社の飲み会で帰りが遅くなり、静香はタクシーで大通りを使って帰った。そして土曜の朝から実家に来て一泊している。バーの前を通るタイミングがなかったのでマスターの姿を見ていない。
「落ち着かない......。」
静香はガクリと首を落とした。
“恋人”から連絡が来なくてこんなにそわそわした経験は今までない。静香は嫌な予感がした。
あのマスターが連絡をして来ないなんて普通ではないからだ。
(返事が来てないのに何度も連絡して嫌われたりしないのかな...。)
この2ヶ月間の出来事が嘘じゃないかと思ってしまう。
たった3日でこんなに恋しいと感じるのなら、恋い焦がれる相手から恋文をずっと待ち続けるのはさぞ辛かったのだろうと静香は思った。
(その魂がこんなに過剰に心配させるのかな...。)
そわそわして落ち着かないがこんな悩みは恥ずかしくて誰にも相談できなかったーー。
「あなた今日すぐに帰るの?」
朝ご飯を食べていると、先に食べ終えた母が席を立って台所から声をかけてきた。実家に呼ばれた理由は“置いたままになっていた本を片付けて欲しい”ということだったので昨日の夜のうちに全て済ませていた。
「うん。だいぶ片付いたしちょっと気になることもあるし。」
「そういえばお隣の司くん、今度転勤であなたの家の近くになるらしいわよ。」
「げ。」
(確か今九州で働いているはずじゃなかったっけ...。)
「そうなんだ。でも最近連絡取ってないしね。」
「司くん昔からあなたのこと好きだったしこの際結婚しちゃえばいいのよ。」
「司のそれはただのネタだから。」
(いくら結婚適齢期だとしてもそんな適当な提案は勘弁して欲しい。散々学生の時それでからかわれたんだから。)
「じゃあもう行くね。また時間できたら顔出すから。」
食器を片付けリビングにある熱帯魚の水槽を少し眺めてから、静香は用意しておいたバッグを持って家を出たーー。
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