妖美な鬼に恋煩い

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 電車に揺られ1時間ちょっと。最寄駅に帰ってきた静香が改札を出た時、時計は11時を過ぎたところだった。 日曜日の駅前の大通りは人が多い。静香はマスターと待ち合わせした時のことを思い出した。 「マスター元気かな...。」 静香は人混みをすり抜けしばらく歩いてから、バーに続く路地へと入った。 (この時間だと実家の方かな?) 日中はいつもお店のドアにcloseの札がかけられている。 ーーカラン。 その時、お店のドアが開いて人が出てきた。 「あれ?...確か......鬼灯悠斗さん?」 「あぁ。あんた隼斗の彼女。」 「っ?!」 (隼斗の彼女?!) 言われ慣れないそのワードに静香は一人赤面する。 「あの、こんな時間にどうかされたんですか?」 「聞いてない?隼斗3日前から寝込んでるんだ。」 「え?」 静香は目を見開く。 (ね、ね、寝込んでる!?) 「まぁあの調子じゃ連絡どころじゃないか。元はと言えば俺が先週高熱でしばらく寝込んでてさ、隼斗が看病しにきてくれてうつしちゃったんだよね。だから俺が代わりに店出てる。」 「そうだったんですか...。」 まさか病的なこととは全く思わず“携帯の調子がおかしいのかも”とか軽く考えていた自分を静香は呪いたくなった。 普通の“彼女”ならすぐにでも心配して連絡を取ってお見舞いに駆けつけるのだろう。 (...なんて気が回らないんだ私は。) 「そういえばさ、あんたが隼斗の『探してた人』なんだって?」 「え?!」 (なぜそれを...。) 突然話が変わり静香は戸惑った。 「あんた“昔の記憶”はあるのか?」 「昔の記憶?」 (返事を待ちわびながらもすれ違いで命を経った娘の記憶...。) 「たぶん...ないと思います。」 「たぶん?」 はっきりと否定はできなかった。 急に心の底から湧き出るような“愛しさ”が、果たして自分のものなのか死んだ娘のものなのかわからない時があったからだ。 「まぁ記憶ないならあんたにとってはその方がいい。自分じゃない感情を抑えるのは。」 「え?」 最後の言葉に重みを感じて静香は不思議に思った。自分も経験があるような言い方に聞こえる。
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