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遠くから夕方に流れる音楽が聞こえてくる。気付けば静香も一緒に寝てしまっていたようだった。
「...んー。あれ?」
ゆっくりと目を開けマスターを見ると、熱も引いたようで先程よりずっと楽そうに寝息を立てていた。
(もう大丈夫そう。マスターに何か食べさせた方がいいかな。)
台所に行って冷蔵庫を開けてみると、中には悠斗が買ってきたと思われる食材がたくさんあった。
「悠斗さんの方が“彼女”らしいな。」
料理を始めてしばらく経った頃、キッチンの前のカウンターから突然マスターが顔を出した。
「美味しそうな良い匂いですね。」
「え?マスター!」
(料理に夢中で気が付かなかった。)
「勝手にすみません。ちょうど今たまご雑炊できましたけど食べませんか?」
「ぜひ!」
静香は棚に置いてあったお皿によそってリビングのテーブルに置いた。そしてマスターと一緒にテーブルにつく。
(緊張する。料理上手なマスターの口に合うかな。)
「美味しいです!」
マスターは一口食べて目をキラキラと輝かせた。子供のような無邪気な笑顔が可愛すぎる。
(尊い。)
先に食べ終えたマスターが小さく笑った。
「さっき恥ずかしいお話をしてしまいましたね...。」
「え?あ、覚えてましたか?」
「えぇそりゃもう。」
「マスターも色々大変なのに、私ばかり弱音吐いてすみませんでした。」
「いえとても嬉しかったですよ。静香さんの気持ちが聞けて。」
(気持ち..........か。)
ガターー。
マスターが立ち上がると食べ終えたお皿をキッチンへと運んで行ったので静香は慌てて後を追った。
「洗い物なら私が!マスターはソファーでゆっくりしててください。」
そう言って水道に手を伸ばした時ーー。
ーーふわっ。
いつの間に後ろにいたマスターに優しく抱きしめられた。
「え?」
「風邪うつしたらすみません。でも少しだけこのままでいさせてください。」
その時、静香は頭より先に心が動いて口を開いた。
「っ好きです!」
「え?」
「いつも優しくて紳士的なマスターが好きです。
でも私、恐ろしい化け物になっても一途に愛を貫いた“鬼”も好きなんです。」
「..........。」
「マスターが言っていた通り、私の中にある魂が鬼になった彼を知らずに死んだのなら、全部ひっくるめて今愛しいと思うこの気持ちは確かに私だけの想いです!」
息継ぎも忘れて言い切ったので静香は少し息が上がっていた。
さっきのマスターの気持ちを聞いて静香なりに向き合いこれが出した答え。精一杯の気持ちだった。
「..........静香さん。」
マスターは後ろから静香の顎に軽く触れ横に引いた。
ハラリと静香の顔にマスターの髪がかかる。
そのまま優しく唇を落とした。
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