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「んっ...」
重なった唇が温かい。
食べられてしまうような激しいキスも、想いが溶け込んでくるような優しいキスもどっちもマスターだ。
「っ?!」
ーーバッ!!
ハッとしてマスターが慌てて顔を離す。
「すみません!こんなことして本当にうつってしまう。“好き”と初めて言ってくださったのが嬉しくて...。」
(あーもう可愛くてたまらない。)
唇に触れていた温度が既に恋しい。
「もしうつったらその時は看病お願いできますか?」
「任せてください!」
2人でおでこをつけて笑い合う。静香は本当の意味でマスターと恋人になれた気がした。
「静香さんありがとうございます。これ程までに気持ちが満たされたことはありません。」
「......私もです。」
まるで生まれ変わった気分だった。運命の人なんて以前の自分は全然わからなかったけど、今はわかる気がする。
「マスターもう体調は良さそうですか?」
「はいおかげさまで。明日には店に出れそうですね。」
「それは...本当に良かったです。」
マスターからの連絡が来ない3日間、静香はずっと心ここに在らずだった。だが今回きちんと本心で話し合えたことでずっとうやむやになっていたことが解決した。
(悠斗さんと会えたおかげだ...。今度会ったらお礼言わなきゃ。)
「あ、そう言えばマスター。今日悠斗さんが『俺もマスターと同じだから』って言ってたんですけど、どういうことですか?」
思い出して聞くと、マスターは不意をつかれたように目を丸くした。
「えっ。悠斗が自分からそれ関連の話をするなんて珍しいですね...。いや、静香さんは関係あるからかな?」
「関係?」
静香はクイッと首を傾げた。
「悠斗も鬼の生まれ変わりなんですよ。」
「..........え?」
静香は耳を疑った。
「500年に一度の鬼の生まれ変わりは俺だけではありません。悠斗は茨木童子の生まれ変わりです。」
「えぇーー!!」
ーー茨木童子。酒呑童子に並び有名な鬼。
巨大で乱暴者の為周りから恐れられて鬼になったとか。
酒呑童子が鬼の頭目で茨木童子は副将。
配下の中でも1人だけ別格であったと言われている鬼ーー。
「鬼になる前、茨木童子とは育った村が一緒だったんです。幼い頃から仲が良くお互い容姿のことなど気にせず唯一認め合った親友でした。
酒呑童子が鬼になって村を去った後、一人ぼっちになった茨木童子もまた、自ら鬼となり酒呑童子を追いかけ共に生きたのです。」
「追いかけて...」
(親友の為に鬼になった。それ程までに絆が深い2人......。)
静香はマスターと悠斗のことを思った。
2人からは言葉に表せないような繋がりを感じた。一緒にいるのが当たり前でお互いのことを暗黙の了解でわかっているような不思議な空気。
「そうだったんですね。悠斗さんの“優しさ”はどこかマスターと似てると思いました。」
マスター1人でその運命に立ち向かっているわけでないとわかると静香は心から安堵した。寄り添って理解してくれる絶体的な味方がいる。
「2人なら心強いですね!」
「え?」
「え?」
マスターの「え?」に思わず同じように返してしまった。一瞬空気が止まる。
(私何か変なこと言った?)
するとマスターは眉尾を下げて笑った。
「実は...2人ではありません。」
「ん?どういうことですか?」
「俺たちの他に、あと4人いるんです。」
「................よ、よにん!?」
静香の思考は一時停止した。頭が追いついていかない。
「ちょっと彼らは厄介で...。静香さんの存在が見つかったら少しばかり面倒なので。全力で守ります。」
(どういうこと?!鬼が全部で6人!私これから一体どうなるの...?!)
やっと本気の恋というものを知ったばかりの静香だが、選んだ道はもしかしたら荊だらけの恐ろしい道なのかもしれないーーー。
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