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カーテンを開けると、朝から雨がしとしとと降り続いていた。
今年も通勤途中の紫陽花が綺麗に咲いている。紫陽花の色は土壌で決まり、そして更に日が経つにつれ色が変化するらしい。
梅雨のこの時期は鬱々とすることが多い。
しかし今年の静香は未だかつてないくらいに心が晴々としていた。マスターと付き合い始め最初は戸惑うことばかりだったが、今は不安だったわだかまりもなくなり平穏に過ごせていた。
相手が絶世の美形で自分がただの凡人でも最近は気にしなくなった。周りからの反応にも嫌でも慣れる。
(案外神経図太かったのかな私)
その後これといって静香の生活に変化はなかった。マスターは週末の日中は実家で書道を教えている為、静香が仕事休みの土日も今まで通りに過ごすことが多いからだ。
静香はマスターの姿を思い浮かべた。
「昼は先生、夜はバーのマスター。イケメンのギャップは罪だよね......。」
するとふとこの前マスターから打ち明けられた6人の鬼の話を思い出した。
酒呑童子の生まれ変わりのマスター。
茨木童子の生まれ変わりの親戚の悠斗。
そしてあと4人。
あの日帰って調べてみたら、酒呑童子には配下に四天王といわれていた4人の鬼がいたということがわかった。
「おそらくその四天王の生まれ変わり...だよね?」
その4人は“厄介だ”と言っていたが、静香が隠れたところでいずれは会うことになる気がした。
(何事もなければ良いけど...。)
静香はソファーに腰を掛けた。録画していた映画でも観ようかとリモコンを手にした時、突然玄関のインターホンが鳴る。
「え?」
(珍しい。宅配が来る予定もないし誰かと約束もしてないのに。)
「誰だろ......。」
インターホンの画面を確認した途端、静香はそこに映っていた人物に愕然とした。
「つ、つ、司?!」
ドアの前にいたのは久しく会っていない幼なじみだった。
いきなりの訪問に慌てて玄関に行きドアを開けた。
すると司が「よう」と手を上げながらずかずかと家の中に入ってくる。
「久しぶりだな静香!おばさんから“彼氏にふられて荒んだ生活してそうだから見に行ってくれ”って頼まれた。」
「は?!」
(ちょっと勘弁して母!まさか結婚とか何とか言ってたの本気?!)
司はリビングに行くとソファーにどかっと腰を掛けた。
「なんだ。綺麗にしてんじゃん。」
「余計なお世話よ。司転勤になったって聞いたけど本当に近所だったの?」
「ああ。すぐそこ。」
先日実家に帰った時に引っ越しのことは聞いていたがまさか本当に近くに住んでるとは静香は思っても見なかった。
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