鬼は泰然と時を待つ

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 マスターに手を引かれ部屋に入るとリビングのソファーに座らされた。口数が少ないと圧が怖い。 「幼馴染みの彼は静香さんのことが好きなようですね。」 「え?......いえ昔からからかわれているだけです。」 マスターは複雑そうに笑った。 「何とも同情すらしてしてしまいそうになります。彼は今まで相当苦労したのでしょう。」 「でも司には私もいじめられてきましたよ?」 少しむくれた表情の静香にマスターは愛おしいと言わんばかりの眼差しを向ける。 「まぁ...理由はどうであれ静香さんが辛い思いをしていたのならそれは看過できませんね。それに......」 ふとマスターの顔つきが変わった。少し目を閉じた後静香の髪を一筋すくい口づけを落とす。 「先程は一瞬でも気が狂うかと思いましたよ。鬼の血が騒いでもしょうがない。」 まるで司が抱きしめていた記憶を消すように力強く静香を強く抱き寄せ、そのままグイッと膝の上に座らせた。 「あっ...」 首筋を美しく長い指がなぞり、そして首の後ろにまわした手で強く顔を引き寄せられーー 「んっ。」 唇が重なる。 何度も何度も。優しく...そして力強くーー。 「静香さんに俺のものだと跡がつけられたらいいのに。誰も近寄れないほどの。」 「マスター...?」 「俺の知らない静香さんを知ってるのだと思うと幼なじみの彼に嫉妬しました。すみません。」 「そんなっ......」 胸がギュッと締め付けられた。 (嫉妬..........。) 静香もさっきの出来事を思い出した。マスターが目の前で他の女性にキスをしてると思ったら衝動で動いた。あれは初めての感情だ。 「心配しなくても私の心はマスターだけのものです。」 (自分でもわけがわからなくなるほど......。) 「私の心を取り出してマスターに見せるとこができたらすれ違いなんてしないのに。」 「静香さんにそう言っていただけて十分幸せです。」 マスターはその言葉にやわらかく、しかし切なそうに微笑んだ。 きっと100%のうちの10%も伝えられていないけど、これから伝えていけるようになりたいと静香は切に思った。 「あ、静香さん?話が変わりますが...」 「はい!何でしょう?」 「夏になったら花火を観に行きませんか?地元で大きな花火大会があるんです。」 「え!?花火大会?!」 静香は瞬時に目をキラキラ輝かせた。 「行きたいです!」 「良かった。地元なので少々遠いのですが。」 「マスターの地元はどこなんですか?」 実家の場所については一度も聞いていなかったので静香は首を傾げた。 (週末の昼間は実家にいて夕方戻ってお店に出てるから近いと思ってたけど...。) 「宮城県の山奥です。」 「...え?東北?!」 (まさかの新幹線移動?!) さすがに静香は驚いた。頻繁に行き来するような距離ではない。 (なんで近場でお店出さなかったんだろ...。) 「そして良い機会なので一度父に会っていただきたいと思いまして。」 「え?!お父様に?!!」 「はい!結婚前提のお付き合いですし。」 「けけけ結婚!!!?」 情報過多で目が回っている静香の横で、マスターは艶やかに微笑んでいたーーー。
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