今宵も鬼は甘く囁く

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 その後しばらく3人で話しながらマスターの作るお酒を楽しんでいた。いつものように由香の合コン話や綾の彼氏の話を聞きながら盛り上がる。 常連さんが何人か帰っていき店内ががらんとしてきた時だった。 ーーカラン。 ドアが開いた。   「いらっしゃいませ。」 マスターの顔が一瞬笑顔のまま固まった。 静香が不思議に思いドアの方を見ると、がたいの良い、身長190㎝ほどありそうな男の人が入ってきてカウンターの端に座った。 (わぁーモデルさんみたい。) 無愛想な感じだが黒髪短髪が硬派な雰囲気にとても合っている。 店の中の女性客の視線は一気に彼に集中した。 しかしその時、マスターの視線の先がではなくその後ろに止まっていることに静香は気がついた。 「ん?」 後から入ってきたに目を留めた静香は唖然とした。 「なんで..........」 現れたのは元彼だった。しかも新しい彼女と一緒に。 「はぁ?!よくここに顔出せたわね!!!」 目敏く入り口に気が付いた由香が突然カウンターに手をついて立ち上がった。 こちらに気付いた元彼はギクッと肩を竦め青ざめる。彼女の手を引いて一目散に店から走って逃げていこうとする。 「待てーこらぁー!」 その姿に激昂した由香がこめかみに青筋をピシッと立て2人の後を一目散に追っていく。 「え?えぇ由香?!」 「まったく。」 慌てた静香と呆れ顔の綾は由香を追いかけて外に出た。路地を少し行ったところで由香が元彼の胸ぐらを掴んでいる。 「二股なんていい度胸じゃないのー!」 (由香ーー!飲み過ぎー!!) 綾が先に駆け寄り由香の腕を掴んだ。 「いい加減にしな由香。やりすぎ。」 引き離そうとするが興奮状態の由香はてこでも動こうとしない。 「由香もういいから...」 見兼ねた静香も由香に近づいた時、元彼の後ろからひょこっと彼女が顔を出した。 「鈴元先輩に魅力がなかったならしょうがなくないですかー?」 「.............はい?」 (空耳?) 突然割って入った彼女の言葉にその場にいた全員が凍りつく。元彼さえも。 「な、な、な、なんだとー!別部署のくせに静香の何を知ってんのよ!」 案の定、由香がキレた。 元彼は青ざめたままオタオタしているし綾はもはや呆れ返ってため息をついている。このままでは収拾がつかない。 「由香もういいから!」 静香は今にも殴りかかりそうな勢いの由香の腕を綾と掴んだ。その時。 「ご、ごめん静香!俺、静香のしっかりしてて頼りになるところ好きだったけど、可愛いなとか思えなくなっちゃって...。それに静香は自立してるから俺なんていなくても大丈夫でしょ?!俺寂しかったんだ!だからそんな時甘えてくれる彼女と出会って運命感じて...!」 「..........。」 彼とは最初から友達の延長のような関係だった。頼りになるタイプではないけど優しくて、ときめきなんてなくても一緒にいると安心できた。付き合ってる時はこれからもそうやって普通の日々が続いていくのかと静香は思っていた。 (寂しいって言ってくれればよかったのに...ううん言えるはずないか私なんかに......) 責める資格なんてないとわかってはいてもこたえた。真っ向から不良品だと言われているようで。 「だからって浮気が良い理由にはならない!静香を全部悪者にするなっ!!」 由香のその言葉に涙が出そうになった。  ーーーするとその時。 突然静香と綾の間から大きい手がニョキッと出てきて由香の肩を掴んだ。 驚いて振り返ると、さっきお店に入ってきたガタイのいい黒髪イケメンが立っている。 「おまえら全員その辺にしときな。」 心地の良い低音がその場に響く。するとイケメンは目を丸くしている由香の顔を見て小さく呟いた。 「正論だが今この子の為にできることはそうじゃないだろ。」 「っ......あたし......静香ごめん。」 シュンとする由香を見て静香は眉尾を下げて微笑んだ。 「ううん私の代わりに怒ってくれてありがとう。でも私は大丈夫。」 「ゔ...しずかぁ〜...」 静香に抱きついて泣きじゃくる由香の背中をポンポンと叩く。そしてそんな静香の背中を綾が優しくポンと一回叩いた。  しかし次の瞬間。 「でもぉ鈴元先輩みたいな人じゃなかなか彼氏もできなそうだからかわいそうなことしたかもー。」 「...は?」 彼女の言葉でその場の空気がまたしても極寒へと変わった。流石に元彼もその言葉には眉間に皺を寄せる。綾までも。 その時だったーー。
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