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店に戻るとさっきの黒髪イケメンがカウンターの中にいた。
「悠斗悪いね。ありがとう。」
そう言いながらマスターがカウンターに入るとすぐマスター目当てらしき女性客に話しかけられていた。
静香も奥のカウンター席に戻った。すると由香と綾がニヤニヤして笑っている。
「もー静香ったらいつの間に!」
「てかなんで言わないのよ。」
「ゔっ......忙しくてタイミングが。」
「もう水くさいなぁ!」
「それに恋愛不向きな私のこと心配してくれてたのにすぐまた彼氏作るなんて呆れるかなとも思って...。」
「へ?」
2人はあんぐりと口を開けて顔を見合わせた。そして大きな声で笑いだす。
「あははそんなわけないじゃん!静香が幸せならなんだっていいんだから!マスター来た時の2人のあの顔見た?ざまーみろよ!」
「そうよ。ひょっとして静香まさかふられたのは自分が全部悪いとか考えてる?」
「うっ......」
「由香もさっき言ってたけど二股かけたあっちの方が断然悪い。手出すなら別れてからにすればいいんだから。色々思うところはあるかもしれないけどもうあんなのキッパリ忘れな。」
「......はい。」
綾がチラッと反対側のカウンターで女の人達と話しているマスターに目を向けた。
「マスター相変わらずもてるね。でも静香のことだけは本当に大事にしてるの伝わってきたよ。」
「綾......。」
綾は静香の席にあるレッドアイのカクテルのグラスを指さした。
「一目で静香が疲れていると見抜いて負担が少ないお酒をつくってくれた。今日のお酒はマスターの愛情そのものね。」
綾の嬉しそうな顔に静香はまた泣きそうになった。
終電の時間が近づき3人は帰り支度を始めた。マスターはまだ女性客と話し込んでいたので軽く会釈をして外に出た。
2人を駅まで送った静香は踵を返しまた同じ道を引き返した。家に帰るにはまたバーを通る。すると路地に入った所で店の前に人影があることに気がついた。
「...あれ?マスターどうされたんですか?」
「静香さん。最後ご挨拶ができずすみません。」
マスターが忙しいのは日常茶飯事。女性客に囲まれているのも出会った時からなので静香は気にしていなかった。
しかしこうやって気遣ってくれる気持ちは正直嬉しい。
「マスターお店あけてて良いんですか?」
「はい。悠斗がいますから。」
「あ、さっきの......。」
マスターはいたずらな顔でニコリと笑った。
「あの方はバイトさんなんですか?」
「まぁそんなとこです。彼は鬼灯悠斗といいまして。親戚です。」
「え?親戚......?」
中性的で綺麗な顔のマスターとはまた違い、彼は男らしく彫りの深いキリッとしたイケメン。系統は違うが親戚となれば納得だ。
「詳しい話はまた今度しますね。ところで静香さん、週末予定がなければ日中デートでもしませんか?」
「え?!」
初めてのデートの誘いに静香は胸を高鳴らせる。
「は、はい!大丈夫です。」
「良かった。では後ほど連絡します。」
マスターが破顔しながら静香のおでこに軽くキスをした。おかげでおでこの温度が跳ね上がる。
「本当はひとりで帰したくないのですがね。気をつけてください。」
「はい!近いので大丈夫です!」
マスターは耳元でそっと囁き手を振ると店の中に戻っていく。
「はぁ良い声すぎ...。」
(耳元はずるい。直で脳に響く。)
マスターの笑顔と愛情表現に息ができなくなりそう。今までこんな気持ちになったことはなかった。
(もしかしたら本当に私を壊すつもりなのかも...)
暗闇で光ったマスターの瞳。あの射貫くような視線には静香も鳥肌が立った。
いつも優しくて紳士的なマスター。しかし彼の魂は正反対。
いつもの物腰柔らかなマスターにも彼の鬼の部分にも、静香はとっくに惹かれていたーーー。
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