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その化け物は私の倍近い体躯を持ち、どれほど離れていようとも発見されれば一瞬で追いつかれる脚力、そして私では抵抗すらかなわない力を持っていた。
そして何より恐ろしいのがどこに隠れようともすぐに見つけ出す嗅覚を持っていることだ。
だが鋭い牙を持っているにも関わらず何故か私を捕らえても食べることはなく、私を巣へと引き摺って持ち帰るたび、貪るように私の全身の匂いをかぎ、舐め回して辱めるのだった。
「……っていう感じの記憶が朧げにあるのよね。母さん全然助けてくれなかったし……」
「あー。あんた小さい頃はいっつもジョンにまとわりつかれてたもんね。でもあれ、遊んでただけでしょ」
「ジョンはそうかも知れないけどさ」
「……そのジョンもすっかりおじいちゃんだね」
ジョンと呼ばれた私が生まれる前から家にいる犬は、居間の真ん中に寝そべっている。
今ではすっかり歳をとって一日の大半を眠って過ごしていた。
私は食卓を離れるとジョンの隣に座り、その背中を撫でた。
ジョンは目も開けずにしっぽをゆっくり振るだけだった。
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