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桜の散り終わった緑の色が好きだ。黄緑でもなく深緑でもない、新緑という言葉がピッタリな色。
律は、道路脇のマンションのそれをチラと眺めてから自転車のペダルを漕いだ。
「おおーい、りつ!」
聞き慣れた声が聞こえて、漕ぎはじめたばかりの脚を止める。
振り返るとやはり見慣れた智哉の笑顔があった。
目があって、お互いほんの少し沈黙する。
昨夜、律は、智哉に告白されたばかりだった。
幼稚園の頃からずっと一緒だった。小学校では、3,4年だけクラスが離れたけれど、あとは、ずっと同じ。中学では、3年だけ離れたがバスケット部でずっと一緒だった。
そして、高校も。智哉は、もっと上のランクの高校を目指せたのだが、律の志望校と同じところを受けた。
智哉は、律よりも15センチほど身長が高くて、少し色素の薄い目と髪を持っていた。自然に整った眉から高い鼻梁は、小学校の頃から女子の憧れの的で、毎日のように告白されていた。
その智哉が。なんで、俺?
律は、不思議で仕方なかった。
大して特徴のない体型と顔。なんなら少し低めの165センチ。栗色のちょっと長めの髪。色白ということを除けば、特に目立つようなところはない。
智哉は、スッと律の隣に自転車を近づけると頭をクシャと触った。
「何かごめんな、昨日さ」
そう言って目を逸らす。
「返事、急がないから。ていうか今まで通りでもいいんだけどさ」
そう言うと今度は、律の目をじっと見た。
「俺、本気だから」
ドキン、と律の心臓が波打つ。
こんな、綺麗な顔だっけ?智哉って。
「あー、まぁ考えとく!」
律は、智哉の手を軽く頭から払って、自転車を漕ぎ出した。
新しいクラスは、智哉とは別だった。
智哉は、残念そうに律に何度も手を振って2クラスむこうの教室に向かっていった。
それを見送ったあと、少しドキドキしながら、2年C組の後ろの引き戸を開けた。
新しいクラスは、知った顔と知らない顔がチラホラとあった。けれどやはり人見知りの律は、少し緊張しながら、出席番号順になった自分の席を探した。
…は、ひ、ふ、ふじかわ…あった。
自分の席を見つけてふと後ろを見ると初めて見る顔が座っていた。随分と身長が高く、肩幅もひろい。
黒髪の短髪。キリリとした眉と強い瞳。少し厚い唇も意思の強さを表すようにきつく閉じられている。
律は、少し怖かったが、勇気を出して彼にぺこりと頭を下げた。
「あ、よろしく。藤川です」
その彼は、少し驚いたような顔をしてから、大きな躰を少しだけ折って律に頭を下げた。
「星野、です」
智哉よりデカイな…
好奇心から、なんとなく律は彼に興味を持った。
「身長デカイね。俺、小さいから。俺が後ろだったら、大変だったな」
小さな声で話しかけると、彼は、少し笑ってくれた。
「そうだな、俺が前だったら、壁だったな、お前」
「だよね」
なんだ、見た目より話しやすいかも。
律は、嬉しくなって、前を向いてニヤニヤしてしまった。
ホームルームが始まり、クラスメイト達の簡単な自己紹介が順に始まった。
これ、苦手なんだよな。
律の心臓は、緊張でバクバクしてきた。
あと三人…
そのとき、後ろから、トントンと背中を突かれた。
え…?
振り返ると星野が急に変顔をしてきた。
は?律は、吹き出しそうになり、慌てて口をおさえる。
きんちょうしてるだろ
星野は、机にあったプリントにそう書いた。
律が頷くと、星野は、またプリントに
俺にだけ、自己紹介するつもりで言えば?どうせ、みんな聞いてないよ
と書いた。
律は、なんだか嬉しくなって、ニコと星野に笑いかけた。
星野は、少し照れくさそうに、律から目線を外して、前を向くように促した。
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