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当時のわたしは処女だった。
彼が痺れを切らし始めていたので、誕生日だし……と決意を固めて来ていたから、その時の衝撃といったら、フライパンで思いきり頭を殴られたぐらいの感覚で。
放心状態になってしまい、突入して2人を責めることもできず、フラフラとその場を離れて家に帰った。
誰もいない家のダイニングテーブルに買ってきたケーキの箱を置いて、どさりと椅子に座ったら、怒りと悲しみと惨めさが三つ巴になって襲ってきて。
目の前の箱を引っ掴み、ホールケーキを取り出して、プラスチックのフォークを突き刺して口に放り込んだ。
もぐもぐと動く頬を熱い涙が伝った。
『美味し…………』
そのケーキはわたしにちょっとした衝撃を与えた。
今まで食べたことがないくらい、バカみたいに美味しくて、フォークが止まらない。
心がズタズタになるような経験をしたのに、心地よい甘さが口の中で溶けて心を癒し、いつしかケーキを食べることに夢中になっていた。
失恋の痛手を和らげてくれたそのケーキに感動して、
パティシエになろうと決意した。
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