無になって、次のアクションを

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駆け抜けるように、もっと鳴れば良い。 耳触りの良い、サイレンの音が、絶妙に騒がしい音を響かせながら夜の街を過ぎ去って行く。 本当ならば、僕もそれに付いて行きたい。 誰にも見えない何かとなって、人ではない何かとなって、いっそ幽体離脱でも良い。 十代の頃は、似たような感覚で、もっと自然にやりたいことができた。 飛べるのだと、ありもしない夢を明るく捉えては、ただ漠然と光の中に身を潜めることができた。 今では、眩しいものには目を細め、拒絶し反抗し反発し、否定しかできないというのに。 随分と思考回路が腐ったものだ。 二週間前に抜いたばかりの歯の神経は、腐っていたからと、いつの間にか引っこ抜かれた。 あのときの異臭といったら。 それを発するのが、僕自身の口内であるのだと、なかなか気付けなかった。 医療機器が焦げているのかと、人ごとのように捉えたのだけれども、それは紛れもなく僕の中から臭うのだ。 まるで、僕の中身が腐ってしまったかのように。歯を支えている神経も菌で侵されて、死んでいく。 死ぬというのは、優しい感覚なのだと思う。 溢れ出る感情を、無にして、望み通りの明日を迎える。 死への渇望を沢山積み重ねれば、いつか幸福の神が訪れるのだろうか。 死神だって良い、僕の気持ちを理解して、励まして連れて行ってくれるならば、何処だって誰だって良いじゃないか。 欲を言えば、死んだ母の若い頃の面影を感じさせる容貌であれば、最高ではあるもののの、そう、そう贅沢を口にできる身分ではない。
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