序章 黄金の勝利

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「ディーラーには資格は必要ありません。それから、焦らなくても、『黄金の勝利』がすぐに売られることはないでしょう。先程も申し上げた通り、この絵は人を選びます。手にした者によっては、プラスにも、マイナスにも振り切ります。日本であった出来事を考えますと、購入者をじっくり、真剣に、お選びになると思いますよ」 その言葉に私は一筋の光をみた。 この人、かなりヒントをくれたのではないだろうか。 黄金の勝利が売られるのは、とても先になる。日本であった出来事のことを話している辺り、日本のディーラーの会社が引き取るってことか? だったら、日本の会社を探せばいい。 きっと、美術館だって、適当なところに引き渡すことはしない。 だとしたら、自ずと絞られてくる。 「あ、ありがとうございました!」 頭を下げると、女性スタッフは首を横に振って去って行った。 私は、もう一度『黄金の勝利』を見上げた。 バロック美術なんて知らないけど。三十年戦争なんて全く覚えてないけど。 私が、現代も在り続ける『黄金の勝利』のディーラーになって、時代が変わるところを見たい。 この絵が次に誰を選ぶのか、私も見るんだ。 ──三度目に再会したときは『黄金の勝利』が、次の購入者を決めるときだ。
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