一章 大樹

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池袋支店。 ここが、初めての仕事場となる。 私が配属されるのは、新宿支店のようだが、今月いっぱいで辞める人を待つため、一旦、池袋支店で1ヶ月過ごすことになった。 駅から、徒歩8分。池袋ではありきたりの10階建てのビルの3階。 「この机を1ヶ月使えばいいから」 通されて、適当に机に案内される。 さすが、アートディーラーの会社だけあって、オフィスの壁には立派な絵画が飾られていた。大きくなることをイメージしてか、大樹が絵のど真ん中に立派にそそりたち、背景はオレンジと黄色の温かい色。 その絵があるだけで、心がポカポカしてくる。 とりあえず、本部から支給されたパソコンを開いた。 必要な情報がここに入っている、が、そのアプリの使い方がわからない。とりあえず、パソコンを机に置いて、荷物を整頓して、恐らく一番偉い人であろう席に座っている人のところへ向かう。 よくドラマである机の配置だから、多分あってると思う。オフィス用の机が向かい合わせになり、その奥に誕生席のように向いている机がある。 私からは一番離れた席だ。 「あ、あの」 カタカタカタとリズムよくブラインドタッチをしている若い男性に話しかけた。 支店長とおぼしき男はピタリと手を止めると、無言で私を見上げた。 名前なんだっけ? あ、そうだ。瀧澤(たきざわ)さんだ。
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