一章 大樹

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仕方ない。他の人に聞こうかと思ったけど、今いるのは、仏頂面の支店長だけだ。 周りはみんな営業に行っている。 気が進まないけど仕方ない。 意を決して、レジュメを握りしめて、支店長のもとへいく。 「すみません……」 恐る恐る声をかけると、瀧澤さんは大きくため息をついて、ギロリと私を見た。 「なんだ」 「このレジュメは、40部コピーをすれば宜しいんですか?」 「見ればわかるだろ」 「あと、名簿を柊木さんに渡されたんですが、どうすれば……」 「柊木に聞け」 そこで話を終わらされてしまった。 いや、柊木さんに聞きたいけど、まだ電話中だし……。 仕方なく、レジュメを40部コピーすることにした。幸い、コピーの仕事はしたことがある。 早速、コピーを始めた。 それにしても『知って楽しい絵画の世界』か。こういうのがあるなら、私も調べて行きたかったな。 ほとんどネットで調べたり、美術館で調べたりだったし。 売るだけでなく、こういう企画にも携われたら楽しそう。 ウキウキしながら、40部のコピーを終えた。ちょうど、柊木さんが戻ってきた。 「印刷したんですけど、これ、ホチキスでとめちゃって良いですか?」 「ありが……。……ん?」 柊木さんはお礼を言いかけると、コピーしたものをぶんどった。 え? 「違う違う違う。これじゃあ、ダメだよ。製本印刷にしないと」 ……製本? え、そんなこと一言も言ってなかった……。 「うちは、B4用紙で製本印刷にするの。背表紙にホチキスするとわかりやすいでしょ」 「あ、すみません」 「レジュメできたか」 タイミング悪く瀧澤さんがやって来た。 息が詰まる。
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