一章 大樹

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「は? こんなこともできないのか」 「すみません。私が、伝えていなくて……」 「聞かなかった新卒が悪い。どう印刷するかくらい聞くだろ」 ……私のせい? 私のせいか……? 聞かないといけないのか。 たしかに、瀧澤さんにはコピーすればいいのかどうかしか聞いてないけど……。 「すみません。やり直します」 「紙だってインクだってタダじゃないんだからな。いつまでも学生気分でいるなよ」 ギロリと見下ろされた。 レジュメのコピーを握った手が汗ばんで、レジュメがよれる。 私は頭を深く下げ、再びコピー機の前に立った。 そこから1ヶ月、地獄だった。 池袋支店の人はほとんど不在。外で営業をしていて、私は雑務をやった。 それは良いんだけど、困ったのは仕事をくれた人は電話に出ていたり、外営業でいなくなったりで、何をどうすればいいかわからなかったことだ。 なんとかやっても、瀧澤さんに文句を言われる。 なぜ聞かないのかと聞かれても、何も答えられなかった。聞ける状態じゃないと言っても、学生気分と言われるのが安易に想像ついた。 そんなこんなで、まともに仕事を覚えられないまま、池袋支店最後の日を迎えた。
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