一章 大樹

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「飲みに行くか」 まさかだった。 この人、飲みに行くの? 誘われては断ることもできず、飲みに行くことになった。柊木さんや受付の人も来た。 最初は緊張していたけど、飲むときは楽しかった。色んな話をして、そろそろ終電だから帰らなきゃと思ったところで、瀧澤さんは私を見つめた。 酒が入って目が赤い。 それがいつもより怖さを増していた。 「ここでじっくり話そうか」 え、終電……。 その言葉を飲み込む。 私はこくりと頷いた。 「俺な、お前と一つしか違わない」 「は、はあ……」 「だから、甘く入ってきたお前をみてると腹が立つ」 嫌われているのはわかってたけど、なにそれ。 帰りたい……。 まさかの説教がはじまった。 「そもそもなんで入社した?」 「え?」 「聞き返すな。入社した理由を聞いている」 「私、去年の夏に美術館に行ったんですが、そこで『黄金の勝利』を見たんです」 「ほう」 この人には話してはいけないと直感が働いたけど、圧力がすごくて、話さなきゃいけない気分になる。 私は内心ドギマギしながら、続けた。
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