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ただの絵画なのに、指を差すのも失礼に感じ、私は紗綾から、女性の目に視線を移した。
紗綾はよくわからなかったらしく、首をかしげている。
私は小学生のとき、この絵に恐怖した。
なぜ、恐怖したのかは、これが原因だった。
「祈りのポーズをしているのに、目を見開いているでしょ」
「……あ、本当だ」
カッと目を見開いた祈りのポーズは見たことがない。
目を開いている絵画はいくつか見たことがある。天を仰いでいたり、薄目を開けていたり、優しい目をしているのだ。
この絵は全く違った。開いた目は力強く見開き、天を仰ぐことなく、真っ直ぐ貫くようにこちらを見ている。目が合っているようにも感じる。
私の身長は156cm。
この絵の身長は、もっと大きい。彼女の目だって目線よりもっと上にある。それなのに目が合ったと錯覚する。
そういえば、小学生のときも錯覚した。今よりもっと身長が低かったのにだ。
ごくりと息を飲む。
一度目が合っては、簡単には逸らせられない。
「タイトルは? なんなの?」
紗綾が聞いた。やっとのことで、彼女から目を剃らし、私は紗綾に答えようと口を開いた。
「黄金の勝利」
ハッと息を飲んだ。
今のは私じゃない。
後ろから声がして振り返る。そこには、紺色のパンツスーツを着用した40代くらいの女性がいた。
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