序章 黄金の勝利

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「この作品は、バロック美術です。作者は不詳ですが、絵の裏には、1630と表記されておりますので、これが年号であれば、宗教改革の時代のものになります。この女性が誰かはわかりませんが、多くの人はマリアと考えており、プロテスタント側の勝利を確信、もしくは、勝利を望んだものだとされております」 まさか宗教革命が入ってくるとは……。 宗教革命とは、16世紀から17世紀にかけて起こったカトリックとプロテスタント(新教徒)の戦いだ。 うっすらとしか覚えていないけど、昔、歴史の授業でやったっけ……。 なるほど、宗教改革のときに描かれたものなら、祈りのポーズをしている理由も、勝利の確信で目を見開いているのも、タイトルが「黄金の勝利」なのも合点がいく。 「つまり、この目の開きは、宗教戦争で勝利を確信した瞬間だと?」 「はい。1630年は三十年戦争が行われている最中。今まで祈っていたマリアが目を開いたのですから、何か願い事が叶ったと表現されていてもおかしくありません。黄金の勝利のタイトルもそこからかと」 三十年戦争なんて、全く覚えていない。 「そして、この絵は曰くつきのものです」 「曰く……付き?」 食いつくと、スタッフの女性は口角を上げ、にんまりと笑った。 まるで、悪戯をするときの子供のようだ。
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