序章 黄金の勝利

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「このお話をできるのも残り数回……。運が良かったですね」 「え、もしかして……」 「はい。近いうちに、アートディーラーの会社に引き渡すことになっております。その会社が、次の『黄金の勝利』を売ります」 「アートディーラーってなんですか?」 「簡単に言うと、美術品を売ることを商売とする仕事です」 なるほど。 そんな仕事があったのか。 私はもう一度、『黄金の勝利』を見つめた。 この絵はいくつも時代を変え、時代が変わるところをみてきた。 いまだに動悸は鳴り止まない。 私も経験したい。 時代が変わるところを、この絵と一緒に。 ──見てみたい。 恋をしたときのような、一筋の道を見つけたような、妙な感覚だ。 「その会社の名前を教えて下さい!」 女性スタッフに迫ると、彼女は困った表情を浮かべた。 「お客様……。さすがにそこまではお伝えしかねます」 至極当然の返しをされた。 夢の世界に連れてこられたのに、急に現実を突きつけられ、私はどうしたらいいかわからなかった。 わかってる。 学生が手に入れられるような品物じゃない。 手に入れたいわけじゃない。 世界が変わるところをみたい。 ただ、それだけ。
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