初めて見た涙

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初めて見た涙

同じクラスにいながら 僕とその女の子の接点は ほとんどなかった。 天と地。 月とすっぽん。 明と暗。 そんな対比的な言葉を使うのが 僕たちには合っている気がした。 その子の周りにはいつも人がいて 僕はいつもひとりで遊んでいた。 その子のお迎えはいつも1番で 僕のお迎えはいつも1番最後だった。 保育園の頃の記憶なので 曖昧なところもあるが その女の子に起きた あの日の事を 大人になった今でも なぜか思い出す。 4月生まれの僕が 5歳になって 数日が経った頃 その子のお母さんのお迎えが 遅い日があった。 ひとり…ふたり…さんにん。 そして お迎えに来てない子が 僕とその子の2人になった時 とても不安気な顔をした。 初めて見た表情だった。 僕はその子に 「はいっ。これ」と言って クレヨンと紙を渡した。 振り返った女の子の目には 涙が浮かんでいた。 僕は先生を見たが お迎えに来た別の子のお母さんの対応で その子の涙に気づいてはいなかった。 「彼女を守る」 子供心に僕はそう思った。 そして、その子にぎゅーをした。
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