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蜂
地獄の狭間から姿を表した謎の生命体軍団「エビルゲノム」。
彼らは人々を絶望へと誘い、街は瞬く間に魑魅魍魎溢れる魔境の地と化した…。
混沌の最中、人々は希望の光を見る!!
ただ一人、エビルゲノムの前に立ち塞がり、人々に栄光の兆しを見せる女!
彼女の名は、Ms.ホーネット!!
「あーあ、突然現れた優しい『ヘッドバンキングしながら鼻毛抜き世界記録保持者』が私のためにポールダンスを披露してくれないかなぁ」
「どんな願いだよそれ」
私は親友のマサオくんと一緒に近所のスーパーで買い物をしていた。
「あ、あれマサオくんの好きな濃縮還元果汁フィギュアだ」
「あ!ホントだ!……ってなにこれ、なんでこんなの売ってんだよ!」
しかし、そんな平穏は突如として崩れ去る。
「キャーッ!」
店内に響き渡る叫び声。店の外に現れた巨大な獣に、人々の視線が集中する。
「ええ、なになに?鼻毛抜き世界記録保持者のサイン会!?」
「頼むからよく見て!エビルゲノムだよ!きっとマッドパンサーだ!!」
マッドパンサーは、確か牙に毒があるエビルゲノムだとニュースで言っていた。
「ヤバい!こっちに向かってくる!」
マッドパンサーは店の窓ガラスを突き破り、店内に侵入した。
「えぇ〜困るなぁ」
「困り方が軽いっ!」
マサオくんは、私を守るように前に出る。
「みーちゃんは逃げろ!ここは俺が…」
「みーちゃんは、私のあだ名だ」
「誰に向かって説明してんの!?いいから早く!!」
「ほいほい、じゃあ後は頼みまーす」
「ええっ、ちょっとくらい引き止めて…」
マサオくんの声を無視し、私は店内を飛び出した。マサオくんにバレてはいけない私の裏の顔を出す為だ。
「変身!Ms.ホーネット!!」
誰も見てないのに、こうして叫ばないと変身できない仕様はどうかと思う。
私は店の前に回り込み、マッドパンサーの後ろに立った。
「そこまでだ!この街でこれ以上勝手な事をするのはこの私が許さん!!」
マッドパンサーは余裕の表情で振り返った。
「ほう、これはこれは。巷で話題のホーネットじゃないか」
マッドパンサーはニヤリと笑う。
「いいだろう、ここが貴様の墓場だぁ!」
マッドパンサーは、私に向かって爪を向ける。
「食らえ!マッドネコパンチ!」
私はそれを躱し、脇腹にミドルキックをかました。
「ウゴッ」
変な声を出し、マッドパンサーは店の前の道路の反対車線まで吹き飛んだ。
「ガッ…クソッ……なんて強さだ…」
「忘れるな、正義は必ず勝っ……」
突然、全身の力が抜けるような感覚に襲われる。特に痺れるような感覚のある右手を見ると、マッドパンサーに引っ掻かれた痕が残っていた。
「ククク、かかったみたいだな。俺の爪には、濃縮された牙の毒をすり込んであるんだぜ…?」
「なんだと…クッ」
思わず膝を付いてしまう。
「ハハハ、これじゃあ正義のヒーローも形無しだな!」
マッドパンサーは徐々に距離を詰めてくる。
「このままじっくり毒が蝕むのを待つのもいいが…せっかくだから一気に楽にしてやるよ、なぁ?」
マッドパンサーの牙が鋭く光る。
「……甘いッ!」
私は残る左手に力を込め、マッドパンサーの眉間に指を突き立てた。
「…あ?」
「忘れるな。スズメバチの武器は毒。私の毒は、お前の毒よりも強力だ」
余裕の表情を浮かべていたマッドパンサーの笑顔は引きつり、額から一筋の汗を流す。
「ホーネットスピア」
指先から発する衝撃波により、一瞬にしてマッドパンサーは向かいのビルの壁に叩きつけられた。
「あが……」
ふらふらとマッドパンサーが立ち上がる。
「まだやる気か、次は手加減できるかわからんぞ?」
「畜生、覚えてやがれホーネット…!」
マッドパンサーは、闇に包まれ消えるように去っていった。
「…さて」
「…おーい、起きて。マサオくん」
「あ、ああ…みーちゃん」
マサオくんはゆっくりと目を開けて起き上がる。よかった、怪我は無さそうだ。
「悪い、なんか急に体が吹っ飛ばされて…」
ホーネットスピアによる衝撃波は激しく、周囲のものを吹き飛ばしてしまうこともある。近くに残ってたのがマサオくんだけでよかった。
「なんか失礼な事考えてないか?」
「気のせいだよマサオくん」
「あ、あれ…マッドパンサーは?」
「さっきMs.ホーネットが倒していったよ」
「そっかぁ、みーちゃんが無事でよかったよ」
「ありがとう。さ、早く帰って『帰ってきた鼻毛抜きおじさん』を見よう」
「え、ちょ、いつの間にそんな映画借りてきて…」
こうして、街は無事平穏を取り戻したのだ。
今日もMs.ホーネットは、人々の希望の光となり、人々の為に戦う!
ゆけ!Ms.ホーネット!!負けるな!Ms.ホーネット!!
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